ロードバイクの有酸素能力を最大限に引き上げるZ2トレーニング徹底解説

Contents

ロードバイクが速くなるのに欠かせないZ2トレーニングとは

古典的だが必ず効果のあるZ2トレーニング

プロロードレーサーは、昔からトレーニングの大半をZ2に費やしています。

30年以上前から「ゆっくり長く走る」トレーニングが、行われてきました。
トレーニング方法が科学的になり、数値化されるようになった現代でもそれは変わりません。
昔は、科学的な根拠なくZ2のトレーニングを行っていました。
Z2という概念はなく「楽なペースで長く走る」と速くなる、という考えでした。
科学的な視点が欠けていたため、常軌を逸した量や時間をかけていることもありました。

プロロードレーサーのトレーニングについてはこちらの記事を参考に

プロ選手が考案した自転車トラック競技専用ZWIFワークアウト5選 【競輪・スプリント・パーシュート】

渡邉正光選手のZWIFTワークアウト徹底紹介!日本でただ一人 競輪S級とJプロツアーを走る漢!

世界最高峰のツールドフランスなどを走るワールドツアーの選手もZ2トレーニングを行っています。

トッププロ選手もトレーニング時間の大部分をZ2トレーニングに費やしています。

2020年、2021年ツールドフランス総合優勝のタデイ・ポガチャル選手は、トレーニング時間の80%をZ2トレーニングに費やしていると言われています。

科学的根拠のあるZ2トレーニング

現在では、Z2の意味や科学的根拠が示されています。
Z2をより理解できるようになりました。
強度の高いトレーニングは、有酸素能力を十分に高めた後に行うべきです。
低強度のトレーニングは、高強度のトレーニングで得られないメリットが多くあります。

高強度インターバルについてはこちらの記事を参考に

【HIITトレーニングでロードバイクが速くなる】30-30インターバルの効果とZWIFTワークアウト5選

Z2トレーニングの定義

Z(ゾーン)とは

Z(ゾーン)とは、トレーニング強度を6段階または7段階に分けたものです。
それぞれのゾーンには、生理的な違いがあります。
Z2は、ある程度快適で長く続けられる強度を意味します。
科学的には、Z2は有酸素閾値以下と定義されます。
有酸素閾値とは、血中乳酸濃度が上昇し始める強度のことです。
有酸素閾値以上の強度では、乳酸がエネルギーとして処理しきれなくなります。
疲労感が急激に増す強度です。

ゾーンについてはこちらの記事を参考に

【ロードバイク】パワー・心拍・RPEを使ったゾーン設定とトレーニングへの活用 

Z1でもZ3でもなくZ2である理由

有酸素能力を最大限に高めるために必要なのは、Z2です。
Z1でもZ3でもありません。
Z1(FTPの55%未満・最大心拍数の50%から60%)は、非常に軽い強度のトレーニングです。
Z1はリカバリーライドには有効ですが、有酸素能力を引き上げるには負荷が軽すぎます。
心肺機能や筋骨格に適切な刺激を与えることができません。
Z3(FTPの70%から85%・最大心拍数の70%から80%)は、有酸素能力向上の効果があります。

Z3は、乳酸が蓄積し始める強度です。
ミトコンドリアが十分に活性化せず、有酸素能力を最大限に刺激できません。
Z3はインターバルトレーニングに取り入れると、FTP向上に大きな効果があります。
Z2はZ1にように刺激が少なすぎることもなく、Z3のように疲労が急激に蓄積することもありません。

乳酸についてはこちらの記事を参考に

乳酸が溜まりにくい体になれば、ロードレースに勝てる理由と乳酸閾値上昇のためのトレーニング方法

Z2トレーニングの指標

3つの指標

Z2トレーニングのメリットを享受するには、有酸素閾値以下に留まることが重要です。
ゾーンは主観的強度(RPE)、心拍数、パワーで設定します。
1つの指標に頼るのではなく、2つ以上の指標を使うことをお勧めします。

パワーを使った指標

パワーを指標にする場合、Z2はFTPの55%から75%と定義されています。
55%と75%は大きく違います。
有酸素能力の高い人ほど、Z2のFTP比が高くなります。
トレーニングを始めたばかりの人は、FTP55%をZ2に設定します。
Z2は2時間から3時間走れる強度です。
もしパワーが維持できない場合は、設定が高すぎる可能性があります。

心拍数を使った指標

心拍数を指標にする場合は、最大心拍数の60%から70%がZ2です。
最大心拍数は年齢から推測する方法もありますが、誤差が大きいためお勧めできません。
実際に測定した自身の最大心拍数を指標にすることで、トレーニングの効果を最大化できます。
最大心拍数と身体能力に相関関係はありません。
心拍数を指標にする場合に問題となるのが、心拍ドリフトです。
心拍ドリフトとは、同じ強度でトレーニングしているにも関わらず、心拍数が上昇する現象です。

心拍ドリフトについてはこちらの記事を参考に

一定ペースでロードバイクを漕いでも心拍数が上り続ける「心拍ドリフト」の抑制方法とトレーニングへの活用
トレーニング後半になると心拍数が上昇するため、パワーを下げることになります。
心拍ドリフトは、脱水などにより引き起こされます。
心拍ドリフトを完全に防ぐのは不可能です。
Z2トレーニングの場合は、最初に設定した強度でトレーニングをした方が良いでしょう。
トレーニングが長時間になる場合、心拍数はターゲットよりも上になります。

RPEを使った指標

RPE(主観的強度)を基準にする場合は、2から3がZ2となります。
RPEとは、運動強度のきつさを10段階に分けたものです。
客観的な数値ではなく、自分が感じた主観的なゾーン分けです。
RPEを指標にすれば、パワーメーターや心拍計など、特別な器具は必要ありません。
しかし、客観的な数値ではないためその日の体調や気分に大きく左右されます。
RPEを使ってZ2トレーニングをすると、数時間後に強度が下がりすぎる可能性があります。
RPEはシンプルな指標ですが、使いこなすにはある程度のレベルが求められます。

Z2トレーニングの5つのメリット

5つのメリット

Z2トレーニングのメリットは多くありますが、代表的なものは以下の5つです。
これらの能力は、お互いに関係しながら高まっていきます。

  • 心肺機能の向上
  • ミトコンドリア数の増加
  • 遅筋の発達
  • 脂肪をエネルギーに変換する能力の向上
  • 乳酸をエネルギーに変換する能力の向上

メリット① 心肺機能の向上

Z2トレーニングにより、心肺機能が高まります。
具体的には、より少ない心拍数で多くの血液を筋肉に送れるようになります。
血液を全身に送るのは、心臓の左心室の役割です。

心臓の役割


左心室はポンプの役割をします。
左心室が強力に収縮し、大動脈から全身に血液が送られます。
Z2トレーニングにより、心臓の左心室が大きくなります。
左心室心筋の重量も増大します。
大動脈や大腿動脈も太くなります。
大動脈の内径が大きくなることで、より少ない血圧で血液を送ることができます。

細いホースより太いホースの方が、少ない水圧で水を送れます。
Z2トレーニングにより、肺活量も増加します。
肺活量が大きいほど、多くの酸素を筋肉に供給できます。

心拍出量についてはこちらの記事を参考に

【ロードバイク】VO2MAXを上げるための心拍出量の増やし方

メリット② ミトコンドリア数の増加

Z2トレーニングにより、ミトコンドリアの数が増加します。
ミトコンドリアは、体内でエネルギーを作る「発電所」の役割があります。
ミトコンドリアは体内で共生しています。
1つの細胞には300個から400個のミトコンドリアがいます。
ミトコンドリアは独自のDNAを持つ、不思議な存在です。
Z2トレーニングにより、ミトコンドリアの数を増やすことができます。
ミトコンドリアを増やす最も効率的な方法は、短時間・高強度トレーニングです。
しかし、Z2トレーニングでも十分にミトコンドリアが増えることが分かっています。

ミトコンドリアについてはこちらの記事を参考に

ミトコンドリアを増やすとロードバイクが速くなる理由と効率的なミトコンドリアの増やし方

メリット③ 遅筋の発達

Z2トレーニングにより、遅筋を発達させることができます。
遅筋には、乳酸クリアランスを向上させる機能があります。
乳酸クリアランスとは、体内で生成された乳酸を除去させる速度です。
乳酸は、主に速筋で利用されたグルコースの副産物です。
乳酸は、疲労原因物質ではなくエネルギー源です。
遅筋は、乳酸を取り込んでミトコンドリアに運びエネルギーに生まれ変わらせます。
遅筋が発達することで、乳酸クリアランスが高まり、FTPが向上します。

ミトコンドリアの数が増えると、身体はより多くの脂肪をエネルギーにすることができます。

遅筋についてはこちらの記事を参考に

筋タイプを知ってロードレースに勝つ方法 速筋・遅筋を徹底解説   

メリット④ 脂肪をエネルギーに変換する能力の向上


人は、エネルギーを糖質や脂質から作ります。
糖質は素早くエネルギーに変わりますが、限られた量しか体内に貯蔵できません。
糖質を使ったエネルギー変換はターボエンジンのようなものです。
脂質は、エネルギー変換効率は悪いですが、豊富に体内に蓄えられています。
普通の人で、糖質はエネルギー換算で2,500㎉蓄えられています。
糖質に対して脂質は65,000㎉も蓄えられています。
Z2トレーニングにより、脂質を優先的に使う身体になります。
レースの大事な場面までターボエンジンである糖質を温存することができます。

脂質についてはこちらの記事を参考に

【ロードバイクと食事】ロードレーサーにとって「良い脂質」「悪い脂質」 脂質を知れば速くなる!

メリット⑤ 乳酸をエネルギーに変換する能力の向上

乳酸は、以前は疲労原因物質と考えられていました。
乳酸により疲労すると考えられていました。
現在は、乳酸はエネルギー源であることが分かっています。
乳酸は、主に速筋で糖質をエネルギーに変換する過程で生成されます。
速筋で生成された乳酸は、遅筋のミトコンドリアでエネルギーに変換されます。
Z2トレーニングにより、遅筋が発達しミトコンドリアの数が増えます。
遅筋の発達とミトコンドリアの増殖は、乳酸のエネルギー変換を向上させます。

乳酸除去能力についてはこちらの記事を参考に

オーバー・アンダーインターバルが乳酸除去能力を高める理由とZWIFワークアウト3選

Z2トレーニングの効果を最大化させる方法

Z2トレーニングは非常にシンプル

Z2トレーニングの方法は、非常にシンプルです。
FTPの55%から75%又は最大心拍数の60%から70%で、長時間走るだけです。
長時間とは、1時間から5時間です。
2時間程度できつくなる場合は、目標設定値が高すぎる可能性があります。

長時間トレーニングについてはこちらの記事を参考に

冬のロードバイク 低強度・長時間VS高強度・短時間 どちらがベスト?

Z2トレーニングの効果が表れるのは時間が必要

Z2トレーニングの効果は、すぐには表れません。
トレーニング効果を実感するには、ある程度の期間が必要です。
Z2トレーニングは、少なくとも4週間から8週間は続けます。
トレーニング全体の60%から80%は、Z2トレーニングに費やします。

Z2トレーニングの頻度と時間

週5回トレーニングする場合は、3回から4回はZ2トレーニングします。
最初は、1時間から2時間から始めます。
最終目標は、4時間から5時間です。

有酸素能力が向上したら、強度の高いトレーニングに移行できます。
その場合でもZ2トレーニングは継続します。
週5回トレーニングする場合は、2回はZ2トレーニングに費やします。
Z2トレーニングは継続しないと、簡単に効果がなくなってしまいます。

Z2トレーニングの注意点

アップダウンや信号で数値を上下させない

Z2トレーニングの方法はシンプルですが、正確に行うのはテクニックが必要です。
最も重要なのは、パワーや心拍数を上下させないことです。

下のグラフは5時間を超えるZ2トレーニングのパワーデータです。

ターゲット値を外れる時間が少なくなるように心がけていることが分かります。

5時間以上のZ2トレーニング


トレーニングのほぼ全ての時間を目標の数値でキープします。
特に難しいのが信号やアップダウンです。
信号を待つ間は、当然ですが0Wになります。
心拍数も下降します。
坂を上るときは、パワーが上がりがちです。
坂を下る時はパワーが下がりすぎます。
追い風の時はパワーが下がります。
パワーや心拍数が上下すると、トレーニング効果が最大化できません。
1時間程度なら目標の値を維持できますが、数時間はかなり困難です。
コース選びも重要です。
休憩は最小限にします。
グループライドでは、目標の値をキープすることがほぼ不可能です。
Z2トレーニングは単独で行うのが望ましいです。

Z2トレーニングのみではレースに勝てない

Z2トレーニングで有酸素能力は向上しますが、それだけではレースに勝てません。

レースにはスプリント力やVO2MAXが必要です。

プロ選手は80%をZ2トレーニングに費やします。

そして残りの20%をVO2MAXや無酸素域能力を高めるために使います。

レースの大半はZ2の強度です。

しかし、勝敗の分かれる場面はZ4以上のパワーが必要です。

スプリントトレーニングについてはこちらの記事を参考に

【ロードバイク】クレアチンリン酸を増やし、繰り返されるアタックやゴールスプリントに勝てる体になる方法【反復スプリント】

Z2とZ5以上のトレーニングを組合わせる場合

Z2トレーニングをする日は、Z2のみに集中するのが理想です。

しかし、Z2とZ5以上のトレーニングを組合わせることも可能です。

この場合に注意しないといけないのは、トレーニングの順番です。

Z2とZ5以上のトレーニングを組合わせると、Z2のメリットが失われる可能性があります。

Z5以上のトレーニングは、乳酸濃度が上昇します。

乳酸濃度が上昇すると、ミトコンドリアは脂肪を燃焼させずに乳酸をエネルギー源にします。

ミトコンドリアがエネルギー源を乳酸から脂肪に切り替えるには、多くの時間を要します。

高強度で20分間走った後に、Z2に移行しても脂肪がエネルギー源になるには21分かかるとする実験結果があります。

この21分間はZ2で走っていますが、Z2トレーニングではありません。

Z2トレーニングの恩恵を受けるのは21分後です。

この現象を防ぐには、トレーニングの最初にZ2を取り入れることが必要です。

Z2トレーニングを最初に行い、後半に高強度トレーニングをすることで、Z2滞在時間を最大化できます。


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