真夏のロードレースで勝つために 熱中症のリスクと暑熱順化を徹底解説
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目次
熱疲労しにくいのは11℃以下
日本の夏は暑すぎる
暑さに体が適応することを暑熱順化と言います。
暑い夏のロードレースを勝つには、暑熱順化が必要です。
暑熱順化すると、真夏でも質の高いトレーニングをすることができます。
暑熱環境に対応できないと、パフォーマンスが著しく低下します。
暑さ戦略は、国内ロードレースで戦う上で必須のものです。
人は25℃前後の気温が快適と感じます。
日本の夏は30℃を軽く超えます。
30℃を超える気温でのロードレースやトレーニングは、体が暑さに適応している必要があります。
人も含め、動物の体の中心温度は37℃です。
なぜ37℃なのかは諸説ありますが、完全には解明されていません。
気温が25℃で体の中心温度が37℃だと体から放熱する温度の方が高くなります。
放熱する温度を補うために人の体は常に熱を生産しています。
周りの気温より体温が高いので絶えず熱生産する必要があるね
水分補給についてはこちらの記事を参考に
熱疲労しない気温は11℃まで
体を動かすと体温が上がります。
体温が上がると熱放散して一定に保とうとします。
運動により体の中心の温度は40℃まで上昇します。
気温が高いほど体の中心の温度は上がりやすくなります。
気温が4℃から11℃の範囲なら体温上昇による疲労は少なくなります。
気温が11℃から31℃の範囲になると体温上昇により疲労しやすくなります。
熱中症の発生件数は25℃以上で増加し始めます。
28℃を境目に、急激に増加します。
湿度も大きな要因です。
湿度が高いと汗が蒸発しにくくなり、体温が上昇しやすくなります。
体温が上昇すると疲労感が増すのは様々な要因があります。
冬や雨の日のトレーニングについてはこちらの記事を参考に
体温上昇による体内変化
体温が上昇すると起きる体の変化
体温が上昇すると、様々な変化が起きます。
多くの変化が合わさって、ロードバイクのパフォーマンスが低下します。
糖質の分解によるエネルギー生産への依存が高くなるため、筋グリコーゲンが枯渇しやすくなります。
発汗による水分の損失が増加します。
脱水により血液中の血漿量が少なくなるため、心拍数が上昇し1回当たりの拍出量は減少します。
最大酸素摂取量(VO2MAX)が3%から27%低下します。
運動継続時間が最大30%低下します。
脳が運動を制御
体の中心の温度が上がりすぎると、深刻なダメージを負います。
そのために、体の中心の温度が上がり過ぎないように防御反応を起こします。
防御反応は、脳により行われます。
タイムトライアルでは、深部体温が上昇する以前からパワーが低下します。
体温調整の破綻を防ぐために、運動を予め抑制すると考えられています。
体の中心の温度が上昇すると、脳の温度が上がります。
脳の温度が上がると中枢神経により運動を制御すると考えられています。
高温下では、骨格筋の動員を脳が下方修正します。
体の中心の温度が更に上昇すると、運動抑制は更に高まります。
脳が運動を制御する温度は40℃です。
40℃を超えると神経活動が弱まり骨格筋の活動が著しく低下します。
体の防御反応と考えられています。
しかし、その仕組みについてはまだ完全には解明されていません。
仕組みは完全には分かっていないんだね
判断能力の低下
体温が上昇すると、判断能力が低下します。
約38℃の中程度の体温上昇は、認知能力が上昇します。
体温が39℃まで上昇すると、運動時の認知能力が低下します。
ロードレースにおいて、認知能力の低下は致命的です。
レース展開を素早く判断できなくだけでなく、落車のリスクも上昇します。
同じ気温でパフォーマンス低下する人・しない人
同じ気温で同じトレーニングしても、人によって体の中心の温度は違います。
体の中心の温度が上がりにくい人は高いパフォーマンスを発揮できます。
最も速いアスリートは、通常の体温より高い温度まで到達することができます。
体温が上がりにくく、上がったとしてもパフォーマンスが抑制されません。
熱中症による横紋筋融解症の危険性
熱中症と横紋筋融解症の危険性
熱中症は、横紋筋融解症を誘発する要因となります。
横紋筋融解症とは名前のとおり、横紋筋が融解し、壊死する状態です。
横紋筋とは、心臓を動かす心筋や体を動かす骨格筋を指します。
横紋筋融解症により壊死するのは、骨格筋です。
横紋筋融解症が体に及ぼす影響
横紋筋が融解、壊死するとミオグロビンが血液中に流れ込みます。
ミオグロビンが血液中に流れることで、血管が詰まります。
その結果、急性腎不全や多臓器不全を発症します。
横紋筋融解症からの回復は時間がかかります。
腎臓が回復するまでに数か月から半年を要する場合もあります。
熱中症と横紋筋融解症の関係を理解し、予防することが重要です。
横紋筋融解症の症状
横紋筋融解症の症状は筋肉の痛みと脱力です。
通常の筋肉痛の痛みは翌日がピークです。
その後、痛みは徐々に消失します。
横紋筋融解症による筋肉の痛みは、数日後も消失せず、酷くなっていきます。
筋肉が腫れるようになります。
この様な症状が出た場合は、病院で血液検査を受ける必要があります。
ロードバイクは横紋筋融解症を発症しやすい
横紋筋融解症の発症要因は脱水、深部体温の上昇、高い運動強度です。
横紋筋融解症はエキセントリック収縮により発症しやすいとされています。
エキセントリック収縮とは、筋肉が伸びながら力を発揮する運動を指します。
ロードバイクのペダルを回す運動はエキセントリック収縮を伴います。
ロードバイクは横紋筋融解症の発症リスクが高い運動です。
暑熱順化 暑さに順応するシステム
暑熱順化の仕組み
暑さに体が適応することを、暑熱順化といいます。
暑熱順化は、短期暑熱順化と長期暑熱順化に分かれます。
短期暑熱順化は、季節の変化で一時的に暑熱順化することです。
長期暑熱順化は、熱帯地方で生活し、恒常的に暑熱順化することです。
日本に住んでいる人は、夏になると短期暑熱順化します。
暑熱順化すると体の中心の温度は同じなのに、60%Vo2max強度で32分間長く動けるようになります。
暑熱順化していないと熱中症のリスクが増加
暑熱順化すると、熱中症のリスクを減らすことができます。
熱中症の発生件数は、梅雨の合間や梅雨明けに増加します。
この時期は、多くの人が暑熱順化していません。
体が暑さに順応していないため、熱中症のリスクが高くなります。
暑熱順化による体の変化
暑熱順化による4つの変化
暑熱順化すると、汗をかきやすくなります。
汗がサラサラになり、皮膚表面が熱くなります。
暑熱環境下でトレーニングしても、心拍数が上がりにくくなります。
- 発汗機能の変化
- 汗成分の変化
- 皮膚血管の拡張
- 循環血液量の増加
発汗機能の変化
暑熱順化すると、汗をかきやすくなります。
逆に、低い温度でも汗をかくようになります。
汗の蒸散により、体温上昇を抑制できるようになります。
汗腺あたりの発汗能力は上がりません。
しかし、短期暑熱順化で発汗量が増えた実験もあります。
ウマやカバも汗をかいて体温調整します。
汗成分の変化
暑熱順化すると、汗がサラサラになります。
汗には、ナトリウムが含まれます。
汗を多くかくと、ナトリウムが失われ体液や電解質のバランスが崩れます。
暑熱順化すると汗に含まれるナトリウムの量が減ります。
汗腺でナトリウムが再吸収されるためです。
ナトリウムの損失が少なくなるので、多量に汗をかいても電解質バランスが崩れにくくなります。
多量の汗をかくと、血中のナトリウム濃度が低下します。
その結果、全身けいれんや呼吸困難を発症します。
暑熱順化すると、汗成分が変化しナトリウムが失われにくくなるので、低ナトリウム血症のリスクが減ります。
皮膚血管の拡張
暑熱順化すると、皮膚表面近くの血管が拡張しやすくなります。
皮膚血管が拡張すると、皮膚の温度が上がるので熱放散しやすくなります。
皮膚の温度が上がることで、汗の蒸散作用も高まります。
暑熱順化すると、少し体を動かしただけで皮膚表面が熱くなります。
循環血液量の増加
暑熱順化すると、循環血液量が増加します。
循環血液量が増加すると最大酸素摂取量が増加し、持久運動のパフォーマンスが上がります。
暑さに対する耐性も上がります。
効率よく暑熱順化する方法
暑くなれば、誰でも自然に暑熱順化します。
しかし、人よりも早く暑熱順化することで5月や6月のレースで有利になります。
短期暑熱順化の方法
短期暑熱順化の条件は3つです。
- 環境条件(周囲の気温)
- 運動条件(一定以上の運動強度)
- 着衣条件(服の種類など)
全てが揃わなくても暑熱順化します。
実験によると、運動条件はしなかった場合と比べて暑熱順化が2.4倍早かったです。
暑い環境でトレーニングすることで、より早く暑熱順化できます。
暑い環境でトレーニングすると暑熱順化が促進される
運動せずに安静の状態で最高気温32℃、平均気温27℃の環境で10日間過ごすと暑熱順化しました。
暑い環境に居るだけでも暑熱順化することができます。
暑い環境でトレーニングすると、より早く暑熱順化できます。
涼しい環境でトレーニングしたり、顔に扇風機で送風すると暑熱順化が妨げられます。
暑熱順化が目的なら暑い環境が必要です。
トレーニングが目的なら、涼しい環境の方が高いパフォーマンスを発揮できます。
ZWIFTに最適な室温についてはこちらの記事を参考に
ZWIFTに最適な快適室温は何度!?暑すぎる・寒すぎるとどうなるの!?
暑熱順化には脳の温度上昇が必要
暑熱順化には、体温上昇が必要です。
特に脳の温度上昇が必要です。
脳の温度を上げることで暑熱順化が促進されるよ
暑熱順化すると、安静時の体の中心の温度が下がります。
より低い気温でも汗をかき始めるようになります。
暑熱順化に必要な期間とトレーニング強度
暑熱順化には、一週間から10日間必要です。
暑熱順化トレーニングを始めて3日目から、変化が現れます。
暑熱順化トレーニングは、体の中心の温度を1℃以上、上昇させる運動強度が必要です。
目安として、Vo2max強度の50%から60%で60分間から100分間トレーニングします。
Vo2max強度の75%で30分間トレーニングすることも有効であると言われています。
暑熱順化に必要な気温は、はっきりと判明していません。
熱中症に注意しながら、ある程度暑い環境でトレーニングします。
湿度も大きな要因です。
湿度が高いと、同じ気温でも汗をかきやすくなります。
体温も上昇しやすいので、暑熱順化が促進されます。
体温や皮膚温を上げることが重要です。
血漿の量や心拍数は暑熱順化トレーニングを始めて一週間程度で一定になります。
発汗量は暑熱順化トレーニングを始めて一週間以上経っても増え続けます。
一度暑熱順化すると一週間程度では消滅しません。
無効発汗は暑熱順化を抑制する
無効発汗とは、蒸発しない汗のことです。
暑い環境でトレーニングすると皮膚表面に汗が溜まります。
汗が溜まり、皮膚が濡れた状態になります。
皮膚の表面に汗が溜まると、皮膚の表面の角質層がふやけた状態になります。
角質層がふやけると汗の出口である汗孔がふさがり、発汗しにくくなります。
この現象は、発汗漸減(はっかんぜんげん)と呼ばれます。
トレーニング中に顔に扇風機を当てると、脳温が上がらず暑熱順化が妨げられます。
しかし、皮膚の表面が汗で濡れすぎると、発汗漸減が起こり発汗量が抑えられてしまいます。
発汗漸減が起こると、暑熱順化は抑制されます。
長期暑熱順化
熱帯地方に暮らす人は、恒常的に暑熱順化しています。
長期暑熱順化すると、発汗中枢の活動が低下します。
汗腺の感受性が低下するので、汗をかきにくくなります。
汗の最大分泌量も減少します。
汗腺の数は多くなるので、少量の汗で皮膚の表面を濡らすことができるようになります。
皮膚血管が常に拡張しているので、皮膚温が高く保たれます。
少量の汗で皮膚を湿らせ、高い皮膚温で蒸散できるようになります。
タイ人は発汗量が少なく、皮膚温が高いことで知られています。
長期暑熱順化は、遺伝的要素と環境的要素があると言われています。
日本人でも熱帯地方に長期滞在すると、長期暑熱順化します。
逆にタイ人が日本に長期滞在すると暑熱順化は後退します。
暑熱環境でのエネルギー補給
必要カロリー
暑熱環境で、必要なカロリーが増加することはありません。
暑熱環境でトレーニング強度は下がりますが、必要カロリーは増えません。
水分摂取
暑熱順化が完了していない人は、多くの水分を欲しがる傾向があります。
水分補給の際は、ナトリウムと糖質を添加する必要があります。
水分補給についてはこちらの記事を参考に
発汗量の多い人は15分毎に400mlの水分を補給します。
長時間のトレーニングやレースでは、水分補給のミスマッチが起こりやすくなります。
ミスマッチとは、水分の過剰摂取や枯渇です。
暑熱環境では、汗に含まれる塩化ナトリウム濃度が高くなります。
暑熱順化すると、同じ発汗率でも塩化ナトリウム濃度は低くなります。
トレーニング前に水1リットルに対して1gのナトリウムを補給することが、対策になります。
塩を添加すると、水と比較してのどの渇きを抑制します。
冷たい飲料の方が吸収性が良く、補給も捗ります。
冷たい飲料は、体温を低く保つ効果もあります。
糖質補給
暑熱環境でトレーニングすると、グリコーゲンの消費が増加します。
脂質の消費が減少します。
水分補給に糖質を添加すると、口内の味覚が刺激されます。
味覚が刺激されると、心身の機能を高める効果があります。
脳が勘違いを起こすと考えられています。
また、トレーニング後は糖質飲料を補給すると血漿量の回復が高まります。
タンパク質補給
暑熱環境では、筋タンパク質の合成が阻害されます。
通常の環境よりもタンパク質の分解が増加します。
トレーニング後にタンパク質を摂取すると、筋タンパク質の合成が促進されます。
このことは、暑熱環境でのトレーニングでも同様です。
暑熱環境でトレーニングした後は、通常のトレーニングと同様にタンパク質を摂取する必要があります。
消防士の暑熱順化トレーニング
消防士の暑熱順化
消防士は、暑い環境でも防火衣と言われる耐熱服を着て長時間活動します。
消防士が効率的に暑熱順化する方法を検証しました。
期間は5月から6月中旬です。
防火衣と防火帽を被り、30分から40分程度訓練やランニングを行いました。
トレーニング回数は不明です。
暑熱順化トレーニングの結果、発汗率が増加し体温、心拍数が抑制されました。
同じ運動強度でも楽に感じるようになりました。
発汗率に変化はありませんでした。
これは前述の無効発汗が関係していると考えられます。