ロードバイクのストレスを数値化し、リカバリーを促進するためのHRV(心拍変動)活用方法
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Contents
目次
ストレスを可視化できる心拍変動(HRV)
ウェアラブルデバイスで測定可能なHRV
HRVは心拍変動を意味します。
交感神経と副交感神経のバランスを数値化するので、ロードバイクトレーニングの回復などに役立てることができます。
HRVを測定するには、睡眠時にウェアラブルデバイスを装着し、解析する必要があります。
パワーメーターなどロードバイクで使用する計測機器の多くは、トレーニング負荷を測定するためのものです。
HRVは、安静時の体の状態を把握するための数値です。
以前は、HRVの測定は電極を装着し心電図を解析する必要がありました。
近年、ウェアラブルデバイスの進化によりHRVが誰でも手軽に知ることが出来るようになってきました。
リカバリーについてはこちらの記事を参考に
ロードバイクのリカバリー戦略 回復食のタイミング・量・注意点
心拍数とHRVの違い
心拍数は、1分間に心臓が何回鼓動するかを示します。
1分間あたりの心拍数はbpmで測定されます。
心拍数は、ロードバイクのトレーニングで強度を表す指標として長年使われています。
心拍数についてはこちらの記事を参考に
【ロードバイク】パワー・心拍・RPEを使ったゾーン設定とトレーニングへの活用
一定ペースでロードバイクを漕いでも心拍数が上り続ける「心拍ドリフト」の抑制方法とトレーニングへの活用
心拍数に対して、HRVは2つの心拍の間隔を示します。
ミリ秒(ms)で測定されます。
心拍数が60bpmでも、心拍の間隔は正確に1秒ではありません。
ある時は0.7秒で、ある時は1.3秒であったりします。
心拍の間隔である心拍変動を数値化したのがHRVです。
HRVがロードバイクのトレーニングに使われる理由
なぜHRVがロードレーサーに注目されているのか
HRVはガーミンなどのウェアラブルデバイスの普及に伴って、ロードバイクトレーニングでも使われるようになった指標です。
HRVを測定する最も標準的な方法は、電極を装着して心電図を解析することです。
心電図による測定は、正確ですが手軽ではありません。
ガーミン、Fitbit、WHOOP、Ouraのようなウェアラブルデバイスの普及により、より手軽にHRVを測定できるようになりました。
これらのウェアラブルデバイスは血流からHRVを推定します。
心電図ほど正確ではありませんが、24時間モニタリングできます。
その結果をロードバイクのトレーニングに活用することができます。
ウェアラブルデバイスの中でも、whoopはヨーロッパの多くのプロロードレーサーや大谷翔平選手などが愛用しています。
HRVでロードバイクトレーニングの身体的・精神的ストレスが数値化できる
HRVは、交感神経と副交感神経のバランスを数値化したものです。
パワーがトレーニング中の強度を示すのに対して、HRVは疲労度と回復をモニタリングできます。
パワートレーニングについてはこちらの記事を参考に
ロードバイクのトレーニングボリュームを決める3つの基準【距離・時間・パワーデータ】ベストな方法は!?
HRVは自律神経の変化を表します。
自律神経系は、交感神経と副交感神経の2つの神経系から成り立ちます。
交感神経は「闘争」と「逃走」の反応です。
副交感神経は「休息」と「消化」の反応です。
交感神経は心拍数を増加させ、副交感神経は心拍数を減少させます。
交感神経は血流を増やし、副交感神経は血流を減らします。
交感神経の機能を担うのは、主にアドレナリンとノルアドレナリンです。
リラックスしている時は、副交感神経が優位になります。
交感神経と副交感神経のバランスがとれている場合は、HRVが高くなります。
HRVが低い時は、感神経と副交感神経のバランスがとれていない可能性が高いです。
HRVが低いのは多くの場合、交感神経が優位になっています。
体や精神がストレスを受けている可能性が高いです。
HRVが高いほど、体力があり回復状態も良好である傾向があります。
但し、有酸素運動を過度に行っている場合はHRVが上昇するなどの例外もあります。
HRVをロードバイクトレーニングに活用する
HRVは、毎日の変化を見続ける必要があります。
HRVの変化を把握すると、次のようなことが出来るようになります。
- リカバリーの状態を正確に把握できる
- オーバートレーニング状態であるかをモニタリングできる
- トレーニングに対して、適応しやすい時期や適応しにくい時期を把握できる
- 特定の日にパフォーマンスが良くなる/悪くなるを把握できる
- 病気やケガを予測できる
オーバートレーニングや風邪をひく前は、HRVが低くなります。
順調に回復している時や、ストレスのない時はHRVが高くなります。
HRVは高いほど体調が良い傾向がありますが、有酸素系のストレスが高すぎる場合も上昇するので注意が必要です。
HRVは基準となる数値がありますが、最も重要なのは日頃の数値です。
調子が良い時と比較し、今の数値が高いか低いかを判断します。
飲酒や夜更かしは、HRVを低下させます。
一時的な低下は、あまり参考になりません。
数日間の傾向を見る必要があります。
オーバートレーニングについてはこちらの記事を参考に
バーンアウト(燃え尽き症候群)を防げ!~いつまでも情熱的にレースするために~
HRVの仕組みを理解する
HRVの算出方法
正確なHRVを算出するには、電極を用いた心電図モニターが必要です。
心電図モニターで少なくとも2分以上の心電図を収集します。
正常な心電図は、下のようなものになります。
最もピークが高い部分がR波です。
R波とR波の間をRR間隔と呼びます。
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RR間隔は等間隔に取得されていないため、リサンプリングします。
次に、RR間隔からデータのパワースペクトル密度を求めます。
パワースペクトル密度とは、異なる周波数における信号のパワー分布です。
RR間隔の低周波領域は交感神経を反映します。
RR間隔の高周波領域は副交感神経を反映します。
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RR間隔のリサンプリングデータと低・高周波領域の比率からHRVを算出します。
低・高周波領域の比率は、交感神経と副交感神経の比率を表します。
比率を求めることで、自律神経のバランスを数値化できます。
ウェアラブルデバイスによっては、高周波領域(副交感神経)の数値のみを使っているものもあります。
ウェアラブルデバイスのHRV測定
電極による脈拍の測定は、心臓の電気的信号を計測します。
電極を常に装着して生活する事は、現実的ではありません。
ウェアラブルデバイスは心臓の電気的信号ではなく、赤外光などを使って血流変化を測定します。
この方法は心拍タイミングを測定するので、RR間隔とは一致しない場合があります。
HRV解析のガイドラインに則ると、R波を5ミリ秒以内で測定する必要があります。
電極と旧式のウェアラブルデバイスでは20ミリ秒以上の誤差がありました。
旧式のウェアラブルデバイスで正確にHRVを測定するのは不可能でした。
近年のウェアラブルデバイスはR波のみを検出したり、心拍タイミングから正確なRR間隔、パワースペクトル密度を求められるように改良されていると推測されます。
HRVの測定方法
ウェアラブルデバイスでHRVを測定
HRVを測定するには、高度な解析が必要です。
心拍数を測定するよりも、高度な計測技術になります。
HRVは脈拍のように触診などで測定できないため、数値が合っているのか使用者自身が確かめることはできません。
HRVは計測だけでなく、解析が必要です。
ウェアラブルデバイスのメーカーによって使う解析指標が異なります。
多くのメーカーは、高周波領域(副交感神経)の数値を使って解析します。
ロードバイクなどの持久系種目の選手は副交感神経が優位になる場合が多いです。
持久系種目の選手は、一般の人に比べて補正が必要な場合があります。
種目に応じた補正が可能な、信頼できるメーカーのウェアラブルデバイスを使う必要があります。
ウェアラブルデバイスはトレーニング時の速度や心拍数変化、睡眠の状態など様々なデータを測定できます。
HRVは、ウェアラブルデバイスに搭載されている多くの機能の一つです。
HRVが測定できるウェアラブルデバイス
各メーカーは、ユーザーのデータを収集しています。
収集したデータを機械学習させ、より正確なHRVを算出していると推測されます。
ユーザー数が多く、データ解析が盛んなメーカーほど正確なHRVを算出できる可能性があります。
whoopは体調管理に特化したウェアラブルデバイスです。
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バンドを手首に装着し、24時間モニタリングできます。
スマートウォッチなどの機能はなく、スマホのアプリからデータを確認します。
日本語に対応していないなど、ハードルの高い面があります。
OURAもスマートウォッチ機能のないウェアラブルデバイスです。
OURAは日本語に対応しています。
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ガーミンは日本語に対応し、デバイスも豊富なため導入のハードルが低いメーカーです。
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HRVは睡眠時に測定されるため、デバイスは24時間装着する必要があります。
ガーミンの製品はスマートウォッチが中心です。
日中は気になりませんが、睡眠時は装着感が負担になるかも知れません。
アップルウォッチもHRVを測定することが可能です。
一つのデバイスでパワーデータやランニングデータを網羅したい場合は、スマートウォッチが便利です。
24時間365日装着してモニタリングする場合は、スマートウォッチ機能が付いていないデバイスが良いでしょう。
HRVの適正値
HRVの数値は、各メーカーによって異なります。
あるメーカーは、RR間の標準偏差を使用しています。
違うメーカーは、隣接するRR間隔の差の二乗平均平方根を使用しています。
その他に、独自のアルゴリズムを使って数値を算出しています。
メーカーによって用いる数値が異なるので、算出されるHRVも異なります。
HRVはms(ミリ秒)で表します。
下の表は、HRVの目安です。
HRVは、個人差が大きいです。
測定方法によっても異なります。
HRVは、標準値と比較するのではなく普段の自分と比較する必要があります。
使用するウェアラブルデバイスのメーカーの適正値を確認しましょう。
年齢 | 男性のHRV(ms) | 女性のHRV(ms) |
25歳 | 61 | 57 |
30歳 | 56 | 53 |
35歳 | 49 | 47 |
40歳 | 43 | 42 |
45歳 | 37 | 37 |
50歳 | 34 | 34 |
55歳 | 32 | 33 |
60歳 | 31 | 31 |
中年以降は、日常的に運動をしている人とそうでない人とのHRVは大きく異なります。
年齢と生活習慣に応じた補正が必要です。
HRVの低下が意味するもの
HRVが低下する要因
HRVの低下は多くの場合、良い傾向ではありません。
HRVの低下は、ストレスレベルの上昇を表します。
HRVの数値から低下の原因を特定することは、できません。
HRVが低下する要因は、一つではありません。
多くの場合、睡眠不足、過剰なトレーニング、風邪の前兆、生活環境の変化、飲酒が考えられます。
HRVは身体的、精神的影響を受けます。
・精神的ストレス→複雑な意思決定、人前で話す、テストを受けるなど
・化学的ストレス→飲酒、喫煙
・生理的要因→年齢、性別、遺伝的要因
・ライフスタイル→食事、トレーニング量、睡眠の質
・疾患→糖尿病、心疾患、肺疾患、不安障害、パニック障害
HRVが低下する原因を一番分かるのは、自分自身です。
HRVが低下し始めた数日を振り返れば、原因を突き止めることができます。
年齢・遺伝的要因
加齢によって、HRVは低下します。
HRVは20歳から40歳で急速に低下します。
40歳以降は、安定する傾向にあります。
100歳を超えると更に急速に低下するという研究もあります。
50歳までは男性の方がHRVが高いです。
50歳を超えると、男女差はなくなります。
生活習慣の他に、遺伝的影響を大きく受けます。
同じ生活習慣であっても、HRVの数値は個人差があります。
ロードレース当日のHRV低下は悪くない
HRVの低下は、交感神経の活性化を意味します。
ロードレース当日のHRV低下は、興奮レベルの上昇を意味します。
スプリント系種目において、レース当日にHRVが低下すことは好ましいとする報告もあります。
HRV低下≠パフォーマンス低下
HRVが低下したからと言って、すぐにパフォーマンスが低下するとは限りません。
テニスプレーヤーが30日間高負荷でトレーニングした時、HRVは低下しましたがパフォーマンスは向上しました。
女子サッカー選手を対象とした研究でも、同様の結果が見られました。
HRVが低下するような疲労がある場合でも、パフォーマンスは上昇することもあれば低下することもあります。
HRVのスコアが低くても、パフォーマンスに影響するとは限らないと考える必要があります。
HRVの上昇が意味するもの
HRVの上昇はパフォーマンスの上昇を意味する可能性が高い
ロードバイクなどの持久系種目に重要な有酸素能力は、副交感神経活動の増加と関連しています。
有酸素能力が増加する選手のHRVが上昇するのは、よく見られる傾向です。
一方、有酸素能力が上昇しない選手のHRVは変化しないか、低下する傾向があります。
陸上選手の10kmのタイムとHRVの関係を研究した結果、タイムが向上した選手のHRVは上昇しました。
タイムの変化しなかった選手のHRVは、意味のある変化が見られませんでした。
HRV の変化と最大有酸素能力・10K のタイムとの間には大きな相関関係が認められました。
別の研究では、5週間の合宿中に途中の期間までHRVが上昇した選手はそうでない選手に比べて大幅にパフォーマンスが向上しました。
HRVの上昇はパフォーマンス向上に良い影響があると考えるのが一般的になっています。
有酸素運動はHRVを上昇させる
HRVの上昇は、必ずしも良い傾向を示すとは限りません。
ロードレースなどの持久系種目は、オーバートレーニング時にHRVが上昇する事例が報告されています。
持久系のプロ選手を対象とした研究では、3週間の合宿でパフォーマンスの低下とHRVの上昇が見られました。
合宿終了後は、パフォーマンスが上昇しHRVは基準値になりました。
一般的に、オーバートレーニング時にHRVは低下します。
これは、体を守るために交感神経が活性化し警告を発するための反応です。
この場合、安静時の心拍数は上昇します。
回復時間が十分でない場合は、HRVは基準値に戻らず低下傾向が続きます。
HRVが低いままだと、近いうちにパフォーマンスが低下します。
有酸素運動は副交感神経を刺激するため、オーバートレーニングの兆候があるのにHRVが低下しない場合があります。
ボート選手を対象とした研究では、乳酸閾値以下の低強度トレーニングはHRVを上昇させることが分かりました。
冬の乗り込みの時期など、低強度のトレーニングが続く場合はオーバートレーニングにも関わらずHRVが上昇する可能性があります。
HRVだけでコンディションを判断するのは危険
HRVの数値だけでコンディションを判断するのは危険です。
HRVの高い・低いだけではコンディションは判断できません。
HRV の変化は、トレーニング負荷・種類・内容に加えて生活習慣 (睡眠の質、栄養、ストレス)といった複数の要素を考える必要があります。
より効率的にロードバイクトレーニングをするには、HRVの変化が起きた原因や意味を考える必要があります。
HRVの未来
HRVは多くのユーザーが使う事で、より手軽にかつ正確に計測できるようになると予想されます。
継続的な研究により、新しいデータの使い方も開発されています。
HRVは、ロードバイクのパフォーマンス向上や回復に今後ますます活用されていきます。
心疾患の早期発見やてんかん症状の予防など、医療現場での活用も予想されます。
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