2020年はコロナに全世界が翻弄された年でした。
世界の景色は一変してしまいました。
コロナによって人間社会は大きく変わりましたが、スポーツを含むエンターテインメントの世界はその中でも最も強い影響を受けた分野です。
一年前まで、プロスポーツを無観客で行うなんて事を誰が想像したでしょうか。
プロスポーツの無観客化
観客の一体感や歓声が最も重要なスポーツにおいて無観客試合などあり得ないことです。
コロナ以前の無観客試合は観客のトラブルを防ぐ規制的意味や制裁、ペナルティーを科すことを目的としたものでした。
観客はプロスポーツにとって一番大切!
ロードレースもコロナの影響を大きく受けました。
ヨーロッパでは三大グランツールは開催したものの、多くのワンデーレースが中止を余儀なくされました。
そのような状況の中で台頭してきたのがZWIFTを主とするバーチャルレースです。
ZWIFTバーチャルレースを生中継するなんて画期的な試みだけど・・・
コロナの影響でZWIFTは大躍進
ZWIFTはコロナの影響を良い意味で大きく受け、業績を急成長させました。
2015年に有料サービスを始めたときは2万3千人だった会員は2019年に125万人。
そしてコロナにより更に需要が高まり、2020年は倍の250万人を突破します。
わずか1年で会員数を倍に伸ばし、大企業に成長したよ!
ヨーロッパがロックダウンし、人々が室内でトレーニングせざるを得なかった夏頃のワトピアは人で溢れかえっていました。
2020年に新たに始まったのがプロロードレーサーによるバーチャルレースです。
夏は人が多くてアプリがよく落ちたな~
それまでもZWIFTでレースはできましたが、あくまでもトレーニングの一環としてであり、アマチュアロードレーサーのものでした。
新たに始まったプロロードレーサーによるバーチャルレースは観客が観戦することを目的としています。
ZWIFバーチャルレースはつまらない
しかし、実際にバーチャルレースを観戦してどう感じましたか?
私は正直言ってつまらなかったです。
アバターが競うのを見ても感情移入できないし、感動もありません。
でも、アバターを動かしているのはプロロードレーサーであり、コースも起伏に富んでいます。
グラフィックもきれいで、解説もあります。
なぜZWIFTのバーチャルレースはつまらなく感じてしまうのか。
理由が分かりませんでした。
そこで、今回はなぜバーチャルレースはつまらなく感じてしまうのかを論文を参考に考えてみたいと思います。
今回参考にする論文
「スポーツ観戦における感動」早稲田大学大学院 押見 大地
「スポーツ観戦における感動場面ーJリーグ観戦者を事例とした尺度の開発とモデルの応用ー」早稲田大学大学院 押見 大地
人はなぜスポーツに感動するのか
人はなぜスポーツに感動するのでしょうか。
人が感動に至る理論プロセスは以下の通りです。
①状況設定があり、その設定に関する知識やエピソードを知ることで関心が高まる。
②大脳辺縁系が活性化され期待や不安といった心理的緊張が高まる。
③事象が完結し結果がポジティブな時に感動する。
レースを走る選手の経歴や人柄、エピソードを知った上で観戦した方が面白いものね!
ボクシングや総合格闘技を地上波で放送するときは、格闘技に興味のない視聴者を引き付ける必要があります。
その時は煽りVTRを作って感動しやすい状況を作り出します。
視聴者は煽りVTRを見て、今から闘う挑戦者のこれまでの人生や試合に挑む状況設定を知り関心が高まります。
そして試合前に心理的緊張を高め、試合を観ることができます。
試合結果がポジティブなものになるかネガティブなものになるかはコントロールできませんが、勝つ可能性の高い試合の方が地上波で放送されやすいです。
視聴者が応援する選手が勝った試合の方が満足度は高いからです。
コアな視聴者がいる有料放送やネット生配信では試合の設定やエピソードを視聴者が知っているので煽りVTRは作られないことが多いです。
その放送を観る時点で十分に関心は高まっているからです。
ボクシングや総合格闘技は煽りVTRが面白いものね
試合への期待感が高まるよ!
感動にも種類があります。
①喜びを伴う感動
②驚きを伴う感動
③悲しみを伴う感動
④尊敬を伴う感動
このうち、悲しみを伴う感動は、結果が自分に直接関係ないものでないといけません。
例えば、競輪で賭けていた選手が負けても感動はしません。
確かに、競輪で賭けに負けて感動しているおじちゃんはいないね・・・
がんばって練習していたのに負けてしまった。
ひたむきに走ったのに負けてしまった。
など、負けた結果が観戦者に直接関係ないことが大切です。
同じ関心度で同じ試合を観戦しても、人によって感動の度合いは違います。
男性よりも女性の方が感動しやすいです。
若年者よりも年配者の方が感動しやすいです。
そして観戦経験の少ない人の方が多い人よりも感動しやすいです。
これは、一度満足すると感動の閾値が上がるためと考えられています。
女性や年配者、初めて観戦する人の方が感動しやすいよ!
なぜ人はテレビでも観れるスポーツをわざわざスタジアムまで行って観戦するのでしょうか。
それには以下の理由があります。
①試合内容やチームの人気などのプロダクト要因
②スタジアムやホールなどの物的環境
③天候や試合内容などの不安定要素
④時間と場所、試合内容を観客が共有できる
⑤快適なスタジアムやおいしい食事などの物的環境
⑥失望や怒りといったネガティブな感情
⑦不確実性、手に汗握る展開
スタジアムで観るのとテレビじゃ観客の一体感や気分の盛り上がりが全然違うね
何が足りないのか?
ここまで、人がスポーツに感動する理由やテレビよりもスタジアム観戦を好む理由を考えてきました。
では、ZWIFTレースなどのバーチャルレースに足りないものは何でしょうか。
感動に至る理論プロセス
感動に至る理論プロセスは満たしているでしょうか。
①状況設定があり、その設定に関する知識やエピソードを知ることで関心が高まる
グランツールやワンデーレース、Jプロツアーでも選手一人ひとりにストーリーがあります。
ステージ優勝を狙う選手、総合を狙う選手、そしてその選手を自身の成績を犠牲にしてアシストする選手。
そのレースにかける思いの深さもファンは理解した上でレースを観戦します。
ZWIFTバーチャルレースにはそれがありません。
ZWIFTバーチャルレースで負けたとしてもトレーニングの一環であり、その選手の経歴に傷がつくわけではありません。
レースの重みが全く違います。
ZWIFバーチャルレースにかける思いが伝わってこないよ
②大脳辺縁系が活性化され期待や不安といった心理的緊張が高まる
条件の①が満たされていないので観戦するファンも心理的緊張を高めることができません。
③事象が完結し結果がポジティブな時に感動する
心理的緊張が高まっていないので、結果を見届けても感動はありません。
もしこのレースで勝ったらその選手の未来がどう変わるのか?
負けたらどうなるのか?
人生を賭けた戦いをファンは望んでいるよ
ZWIFバーチャルレースにそこまでの思いはなさそうだね
スタジアムで観戦するような感動の条件は満たしているでしょうか。
①試合内容やチームの人気などのプロダクト要因
ワールドツアー選手はJプロ選手が出場するので、チームの人気という条件は満たしています。
②スタジアムやホールなどの物的環境
ZWIFTは基本的に家で一人で観戦するのでこの条件を満たすことは困難です。
もしあるとすれば、パブリックビューイング形式でしょうが、今の社会情勢では難しいです。
パブリックビューイングができるならバーチャルレースにこだわる必要性もありません。
③天候や試合内容などの不安定要素
ZWIFTのバーチャルレースは仮想空間で行われるので落車や突然の雨といった不確定要素がありません。
不確定要素がないとレースは淡々と進行するのでハラハラドキドキがなくなってしまいます。
④時間と場所、試合内容を観客が共有できる
これはチャット機能が使えれば満たせます。
YouTubeのチャット機能やニコ生のコメントなど活用し、観戦しているみんなで一緒に盛り上がれます。
⑤快適なスタジアムやおいしい食事などの物的環境
スタジアムでないと難しいです。
⑥失望や怒りといったネガティブな感情
バーチャルレースにかける選手や観戦者の思いが低いので、応援している選手が負けたとしても失望や怒りといった感情は湧きません。
⑦不確実性、手に汗握る展開
全てはスマートトレーナーからのワット信号で決まってしまうので不確定要素が少ないです。
あるとすればネット環境の機材トラブルですが、これにハラハラドキドキするのは無理です。
人がプレーする試合でもテレビ画面だと感動しにくいもの
ZWIFバーチャルレースはさらにアバターがレースをするので余計に不利だね
レースハイライトで落車や突然の雨、リタイヤの場面が入るのはそれだけお客さんの関心が高いってことだものね
ZWIFバーチャルレースはそういった不確定要素が全てないから単調に感じるんだね
このように、ZWIFTバーチャルレースはスポーツで感動するための条件の多くを満たしていないことが分かりました。
バーチャルレースに参加する選手を一つの会場に集めてその表情も同時配信すれば多少は改善されそうです。
しかしリアルレースでのゴール前スプリントや落車、突然の雨、体調不良による無念のリタイアなど、レースを盛り上げる要因をバーチャルレースに盛り込むのは困難です。
でも、バーチャルレースは始まったばかり!
これからどんどん進化していくよ!!
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