ロードバイクのレースやトレーニングは非常に多くのエネルギーを消費します。
パフォーマンスを最大限に発揮するには、エネルギー補給戦略が非常に重要です。
特に90分以上のレースやトレーニングで、エネルギー補給をしないという選択肢はありません。
ロードバイクのエネルギー補給で、長期的な栄養目的を考慮する必要性は低いです。
エネルギー補給は、疲労やパフォーマンス低下を最小限にすることを最優先します。
疲労の大部分は、筋肉と脳で起こります。
筋肉の疲労は、運動により血流と糖質が十分に補給されない事により起こります。
疲労を感じた脳は、体を守るために運動強度を落とすように指令を出します。
血流は、心肺能力をトレーニングすることにより改善できます。
心肺能力のトレーニングについてはこちらの記事を参考に
ロードレースで勝つには有酸素トレーニングが絶対に必要な理由とその方法
糖質の枯渇は、補給により改善できます。
補給として、ポカリスエットなどのスポーツ飲料を薄めて飲む人もいます。
BCAAやEAAを水に溶かして飲む人もいます。
BCAAについてはこちらの記事を参考に。
ロードレーサーにとってのBCAAとEAA 必要なのはどっち?
ドリンクを飲む理由は脱水の防止の他に、エネルギー補給があります。
補給は、大きく水分補給と糖質摂取に分けることができます。
水分補給についてはこちらの記事を参考に
ロードレースやトレーニングで、最も気を付けるべきは糖質補給です。
ロードバイクトレーニングの糖質補給についてはこちらの記事を参考に。
ロードバイクの糖質補給量=酸化速度が最大かつ胃腸の不快感がない量
トレーニング中のエネルギー源は筋グリコーゲンと脂肪です。
中高強度のトレーニングでは筋グリコーゲンが主なエネルギー源となります。
筋グリコーゲンの基は糖質です。
トレーニング中の糖質摂取は、パフォーマンスに多くの恩恵を与えます。
特に90分以上のレースやトレーニングで、糖質摂取の影響が大きくなります。
糖質についてはこちらの記事を参考に。
糖質がパフォーマンスに与える影響は次の大きく3つです。
糖質が枯渇すると低血糖の症状が起こります。
低血糖は、めまい、吐き気、意識障害などを引き起こします。
自分の意思とは関係なく、体を動かすことができなくなります。
補給によって摂取された糖質は、血糖値プールに流入します。
少量の糖質摂取でも、運動中の血糖値を維持又は上昇させることができます。
血糖値の維持や上昇は、疲労の発生を遅らせます。
肝臓や筋肉に貯蔵できる糖質(グリコーゲン)は限られています。
貯蔵されている糖質が枯渇すると、極端にパフォーマンスが低下します。
糖質補給により、筋肉のグリコーゲン利用をセーブできると以前は考えられていました。
現在は、その考えは否定されつつあります。
糖質を補給しても、筋グリコーゲンの節約効果はあまりありません。
糖質補給のメリットは糖質酸化量の増加です。
糖質の枯渇により糖質酸化量が低下すると、エネルギーが産生されなくなります。
同じ量の酸素を使う場合、糖質の酸化は脂質の酸化より10%多くのエネルギーを生み出します。
より多くの糖質を使うことで、より速く、多くのパワーを出すことができます。
トレーニング強度が高いほど筋グリコーゲンは消費される
下のグラフは、トレーニング強度によって筋グリコーゲンの濃度がどれくらい変化するかを表したものです。
筋グリコーゲンとは、筋肉に蓄えられる糖の種類です。筋グリコーゲンは、筋収縮のためのエネルギー源になります。
体内のグリコーゲンの8割が筋グリコーゲンとして蓄えられています。筋グリコーゲンは、トレーニングにとても重要な役割を果たします。
トレーニングすると筋グリコーゲンが分解されてエネルギーになります。
運動強度が高いほど、急速に筋グリコーゲンが分解されていくよ
運動強度が低くても、筋グリコーゲンは徐々に減っていくね
筋グリコーゲンが分解されると、乳酸が発生します。
発生した乳酸の一部は細胞内で再びグリコーゲンに再合成されます。
トレーニング強度が高い→再合成が間に合わない
運動強度が高いと、筋グリコーゲンの再合成が間に合わなくなります。
体内に乳酸が蓄積していきます。
グリコーゲンが再合成されなくなり、筋グリコーゲンが枯渇してしまいます。
運動強度が低いと、筋グリコーゲンが減少するにつれて脂肪が使われるようになります。
しかし、グラフを見れば分かるように、運動強度が低くても徐々に筋グリコーゲンは減っていきます。
トレーニング強度が低くても筋グリコーゲンは減少する
トレーニングが90分以上の長時間に及ぶ場合は、血糖値や筋グリコーゲンを維持するために糖質の補給が必要です。
低強度より、中強度のトレーニングで糖質の消費は多くなります。
しかし、中強度より高強度のトレーニングの方が糖質消費が多い訳ではありません。
ある一定以上になると、糖質の消費は高止まりします。
運動強が低く、糖質に対するエネルギー依存が少ない時のみ糖質の酸化量が少なくなります。
トレーニング中の糖質摂取はトレーニングの質を上げるだけではなく、リカバリーにも有効です。
1時間以上のレースやトレーニングでは、30g/時~60g/時の糖質補給が推奨されています。
糖質30g/時~60g/時は、ようかんを2本から3本になります。
おにぎりなら1個から2個です。
糖質の必要量は、レースやトレーニング時間により決まります。
30分から1時間程度なら、多くの糖質摂取を必要としません。
レースやトレーニングの時間が長くなるにつれて、糖質の必要量は増加します。
糖質の摂取量は最大で90g/時まで増やすことができます。
しかし、いきなり90g/時もの大量の糖質を有効に利用することは困難です。
普通の人の糖質の酸化速度の上限は60g/時です。
これは、小腸での吸収速度と関係しています。
90g/時は総糖質利用量に近いか、上回っている可能性があります。
糖質の摂取量は、徐々に増やす必要があります。
ロードバイクに比べて、マラソンは糖質摂取量が少ないです。
マラソンは固形物を摂らないため、糖質摂取量が低くなると考えられます。
ロードバイクは補給に液体と固形を使えるため、糖質摂取量を増やすことが容易です。
レースやトレーニングの1時間前の糖質補給は、運動開始に近いため運動時の糖質補給に分類されます。
1時間前の糖質摂取は、血漿インスリン濃度の上昇と低血糖を引き起こします。
血漿インスリン濃度の上昇と低血糖は、脂肪の酸化を抑制し、パフォーマンスを低下させると考えられていました。
以前は、このような事から1時間前の糖質摂取はパフォーマンスが低下する可能性があると考えられていました。
しかし現在では、1時間前に血糖値が低下しても一時的なものであり、パフォーマンスの低下とは関係しないと考えられています。
逆に、1時間前の糖質摂取はレース開始時に有効であると考えられています。
ロードバイクは他の種目と異なり、糖質摂取のタイミングが制限されていません。
レースやトレーニングの合間に、自由に糖質を摂取できます。
糖質摂取は、運動開始の1時間前から開始します。
その後、レースやトレーニングが終わるまで継続的に1時間当たりの目標摂取量を摂るようにします。
水に糖質を溶かして使う場合の最適な比率は、環境によって異なります。
水に溶かす糖質の量を増やすと、高濃度の糖質になります。
糖質の吸収部位である小腸へ多くの糖類を送ることができます。
高濃度の糖質は、糖質の摂取目的であるエネルギー源の供給を果たすことができます。
一方で、糖質の濃度が高い場合、胃から腸への流入が遅くなります。
又、高濃度の糖質は浸透圧が高いため腸に水分が流入します。
腸に水分が流入すると、脱水の可能性が高まります。
従って、水に溶かす糖質の量が多すぎると脱水を誘発する可能性が高まります。
高濃度の糖質とは、濃度10%以上です。
一般的な許容濃度の限界は、8%程度です。
糖質の濃度を高めるほど、糖の吸収量を増やせる訳ではありません。
ある限界を超えると、糖質の酸化速度は高まらなくなります。
水に溶かす糖質の量が少ないと、糖質が欠乏します。
低濃度の糖質は、エネルギー供給の目的が果たせません。
糖質の摂取ばかりに気を取られると、脱水によるパフォーマンス低下を招きます。
糖質摂取の推奨量は30g/時~60g/時です。
体重に応じたものではありません。
体重に応じた推奨量が示されることもありますが、根拠が不明です。
糖質摂取の量が体重に依存しない理由は、体重と糖質酸化量に関係性がないことに由来します。
糖質摂取量を決める要因は糖質の吸収速度です。
糖質の吸収速度は、体重に関係しません。
体重の重い人も、軽い人も糖質の吸収速度は同じです。
糖質の摂取量は、絶対量で考える必要があります。
糖質をより早く、大量に吸収できる方がパフォーマンスが高くなります。
補給した糖質の吸収・酸化能力は人によって差があります。
その能力は体重に関係しません。
日常の食事に関係する可能性が高いです。
糖質を吸収するのは腸です。
腸がトレーニングが可能かどうかは、はっきりしていません。
腸は適応能力の高い器官です。
高糖質食を4週間継続すると、糖質の吸収量が増加したとする研究もあります。
トレーニング中の糖質摂取量を少しづつ増やすことで、糖質酸化を推進できる可能性が指摘されています。