ロードレースに勝つために最も重要なのは、日頃のトレーニングです。
トレーニングを積み重ね、重要なレース当日に最高の状態に仕上げるのがテーパリングです。
テーパリングが上手くいくことで、ずっと積み重ねてきたトレーニングが報われます。
テーパリングが不適切だと、せっかく積み重ねてきたトレーニングが台なしになってしまいます。
テーパリングに決定的な方法はなく、一流選手でも試行錯誤しているのが現状です。
前回のテーパリングが上手くいったからと言って、今回も同じように上手くいくとは限りません。
テーパリングに絶対的な法則はありませんが、概要を知ることで成功の可能性を高めることができます。
テーパリングの方法は、主に2種類あります。
「フィットネス疲労理論」と対極にある「超回復理論」です。
フィットネス疲労理論によるテーパリングは、疲労とパフォーマンスの特徴を活かした方法です。
疲労は早く低下するが、パフォーマンスはゆっくり低下するという特徴があります。
この特徴を使うのがフィットネス疲労理論です。
超回復理論は、テーパリング前にかなり負荷をかけたトレーニングをします。
その結果、一時的にコンディションが落ちます。
その後、レースに向けて少しづつ疲労を取り除きます。
テーパリングの実践方法についてはこちらの記事を参考に
【ロードバイクのテーパリング】メカニズムと実践法を知ってレースで最高のパフォーマンスを発揮する方法
テーパリングによりパフォーマンスが向上するには、身体的・心理的に変化が起こる必要があります。
身体的・心理的変化が正の方向である場合、パフォーマンスが向上します。
テーパリングによる身体的変化の大きなものの一つに、呼吸循環系があります。
心理的変化は、気分状態と睡眠の質があります。
呼吸循環系とは、血液やリンパ液を体内で循環させることです。
ロードバイクに必要な酸素を体中に運搬するシステムです。
呼吸循環系の指標はVO2MAXです。
VO2MAXとは、酸素を筋肉に送り込む能力のことです。
VO2MAXについてはこちらの記事を参考に
テーパリング中はVO2MAXが増加するか、変化しないとされています。
VO2MAXが低下する場合は、テーパリング戦略が上手くいっていないことを示します。
ロードバイク選手を対象にした研究では、一週間のトレーニング量を50%にした場合、VO2MAXが6%向上しました。
20kmのタイムトライアルが5.4%改善しました。
一週間のトレーニング量を30%又は80%減らした場合は、パフォーマンスが増加しなかったです。
テーパリングによるトレーニング量の変化は50%前後が最適であるとされています。
30%では減らす量が少なく、80%では減らしすぎです。
テーパリングによってVO2MAXは増加しなかったとする研究もあります。
水泳選手を対象にした研究では、2週間から4週間のテーパリングでタイムは向上したがVO2MAXは変化しませんでした。
同様に、陸上長距離選手も5kmのタイムは2.8%向上したがVO2MAXは変化しませんでした。
テーパリング中でも、安静時心拍数は変化しないとする研究結果が多いです。
安静時心拍数とは、体が休んでいる時の心拍数です。
起床時の心拍数を安静時心拍数とする場合が多いです。
ロードバイクのトレーニングをしている場合は、運動習慣のない人と比べて安静時心拍数が低くなる傾向があります。
安静時心拍数についてはこちらの記事を参考に
一定ペースでロードバイクを漕いでも心拍数が上り続ける「心拍ドリフト」の抑制方法とトレーニングへの活用
テーパリング前に過剰にトレーニング量を増やしている場合は、安静時心拍数が平常時よりも高くなっています。
この場合は、テーパリング中に安静時心拍数が平常時に戻ります。
テーパリング中に最大心拍数が変化するかどうかは、研究結果が分かれています。
研究結果により、増加する、変化しない、減少するがあります。
トレーニング強度が高い期間が長く続くと、最大心拍数は低下します。
最大心拍数の減少は、カテコールアミンの枯渇と関連しています。
カテコールアミンとは、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンの総称です。
副腎から合成・分泌される神経伝達物質の総称です。
カテコールアミンの枯渇は、オーバーリーチやオーバートレーニングの兆候を示します。
最大心拍数が減少する場合は、テーパリング戦略が上手くいっていない可能性があります。
血中乳酸濃度とは、血液中の乳酸濃度のことです。
乳酸は糖をエネルギーに変換する過程で生成されます。
乳酸は疲労の原因物質ではなく、乳酸はエネルギーになります。
乳酸についてはこちらの記事を参考に
乳酸が溜まりにくい体になれば、ロードレースに勝てる理由と乳酸閾値上昇のためのトレーニング方法
LT強度(血中乳酸濃度が急激に上昇するギリギリの運動強度)での心拍数は、テーパリング期間中でも変化しないとされています。
血中乳酸濃度の最大値は、テーパリング中に増加します。
血中乳酸濃度の増加は、筋グリコーゲン濃度の増加と関連しています。
テーパリングによりパフォーマンスが向上する要因の一つです。
陸上800mの選手は、テーパリング中に最大血中乳酸濃度が7.6%増加しました。
最大乳酸濃度の増加とパフォーマンスの向上は高い相関関係があります。
筋肉が糖を利用してエネルギーを生成すると、血中乳酸濃度が高まります。
テーパリングにより十分に回復した筋肉は、素早くパワーを出すことができるようになります。
その結果、多くの乳酸が生成されます。
糖と乳酸の関係についてはこちらの記事を参考に
ロードバイクのエネルギー補給に糖質が絶対必要な理由と実践方法
心理的なコンディションは、ロードバイクのパフォーマンスに大きく影響します。
怒りや抑うつなどは、気分障害と呼ばれます。
ハードなトレーニング期間が長いと、身体はオーバーリーチングの状態になります。
心理的には、気分障害や睡眠障害が出始めます。
気分障害や睡眠障害は、オーバートレーニングの前兆です。
オーバートレーニングになると、長期間トレーニングができなくなります。
パフォーマンスに大きな影響を与えます。
オーバートレーニングについてはこちらの記事を参考に
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身体的なテーパリングは、同時に心理的テーパリングの役割も果たします。
心理的テーパリングにより、気分状態や睡眠の質が向上します。
気分状態は、トレーニング負荷が大きく影響します。
テーパリング中は、気分状態に正の影響を与えます。
怒りや抑うつのスコアが低下します。
活気のレベルが上昇します。
心理的テーパリングは、全ての人に効果がある訳ではありません。
テーパリング中でも、緊張スコアが低下しない人もいます。
この傾向は女性の方が多いとされています。
テーパリングの目標となる大会へのプレッシャーが大きいほど、この傾向は高まります。
プレッシャーから来る不安を表しています。
国内大会を対象としたテーパリングでは、心理的効果があったが、国際大会では効果がなかったとする研究もあります。
日常的に怒りや抑うつなど気分障害を持つ選手は、テーパリングによる心理的効果が高いです。
逆に日常的に気分障害のない選手は、テーパリングにより心理的変化は少ないか、ないとされています。
テーパリングによりリフレッシュした選手は、同じ負荷を軽く感じるようになります。
テーパリングによって、負荷の感じ方が変わるのかを研究した結果があります。
研究では、2週間の強化期間中にVO2MAX90%の負荷をかけた場合のRPE(選手が感じる努力度)が14でした。
テーパリング後は、同じ負荷でRPEが9に低下しました。
心理的テーパリングによって、同じ負荷なのに軽い強度に感じるようになりました。
負荷を軽く感じることは、パフォーマンスの向上につながります。
RPEについてはこちらの記事を参考に
【ロードバイク】パワー・心拍・RPEを使ったゾーン設定とトレーニングへの活用
オーバートレーニングやオーバーリーチングで睡眠の質は低下します。
睡眠障害と過剰なトレーニングは相関関係があります。
テーパリング中は、よく眠れるようになる傾向があります。
テーパリング中は身体的負荷が減少するため、回復が促進されます。
深い睡眠状態であるレム睡眠が増加します。
過剰なトレーニングによる体への過負荷は、テーパリングにより除去することが可能です。
睡眠についてはこちらの記事を参考に