ロードバイクのトレーニングには、様々な用語が飛び交います。
FTP、スイートスポット、テンポ、VO2MAXなどです。
それぞれが同じパワーや心拍数を表していることもあるため、戸惑うことが多いです。
FTP、スイートスポット、テンポ、VO2MAXなどは、ゾーン(Z)で表すことができます。
ゾーンは、自身の出しているパワーや心拍数、努力度を区分けしたものです。
ゾーンを使って、トレーニングの努力度を数値化することができます。
FTPとVO2MAXについてはこちらの記事を参考に
テンポについてはこちらの記事を参考に
ロードバイクのテンポトレーニング徹底解説【効果・リスク・レベル別メニュー】
ゾーンを使えば、トレーニング内容がシンプルに分かりやすくなります。
自分のトレーニングゾーンを数値化しておくことは、大きなメリットがあります。
ゾーンが分かれば、次のことが出来るようになります。
ゾーンは、ロードバイクのトレーニングにおいて基礎となる考え方です。
200W、300W、500Wでそれぞれ維持できる限界の時間は異なります。
200Wを1時間維持出来ても、500Wでは不可能です。
ある時点で限界に達し、維持できなくなります。
全力でペダルを回せば、数秒で限界に達します。
逆に、低い強度は数時間維持することができます。
ロードバイクを前に進めるには、筋肉の収縮が伴います。
筋肉の収縮には、必ずエネルギーが必要です。
数秒のスプリントと、数時間の持久走では、エネルギーの供給過程が異なります。
数秒のスプリントは、ターボエンジンのようなものです。
数時間の持久走は、アイドリングのようなものです。
スプリントでは、瞬間的に多くのエネルギーが必要です。
爆発的なエネルギー産生は、数秒しか続きません。
持久走では、長時間エネルギーを産生する必要があります。
長時間エネルギーを生み出せますが、爆発的なパワーは発揮できません。
それぞれの努力度を表したのが「ゾーン」という概念です。
ゾーンは、基準となるソースによって次の3種類に分かれます。
ロードバイクで最も一般的に使われているのがパワーです。
マラソンなど、他の持久的種目では心拍数が使われます。
ハートレートモニターが普及する前は、主観的運動強度(RPE)が使われていました。
ゾーンは、パワーと時間軸を基に設定されます。
ゾーンの数値は、人によって異なります。
ある人にとってのZ3は、違う人のZ2かも知れません。
ゾーンを理解することで、自分のフィットネスレベルが分かります。
レースは、パワーの高い選手が必ず勝つとは限りません。
ロードレースは、非常に複雑な競技です。
レースの勝敗は、戦術やバイクコントロールテクニックに左右されます。
運も大きな要素です。
パワーが大きい人ほど、有利なレース展開に持ち込めます。
レース戦術に幅が出ます。
弱点の少ない選手ほど、勝つ可能性が高くなります。
パワーが低いよりも、高い方が圧倒的に有利です。
パワーとレースの勝敗についてはこちらの記事を参考に
自分のゾーンの値と標準値を比較すると、長所と短所が明らかになります。
短所は、トレーニングによって改善することができます。
重要なのは、5秒間、5分間、2時間で維持できるパワーはぞれぞれ異なるということです。
それぞれのパワーを維持するために体内で起きていることが大きく異なる、ということを理解することが大切です。
ゾーンの定義は多くあります。
それぞれの定義に根拠があり、一つの正解はありません。
どの定義を使うかで、トレーニング強度が若干異なります。
いくつかのゾーンの定義から、自分にとって最適なものを選択します。
トレーニングには一貫性が必要です。
トレーニング毎に定義の異なったゾーンを選ぶのは避けた方が良いかも知れません。
最も一般的で広く使われているのは、コーガン博士が考案したゾーンです。
ゾーンには「持久走」や「テンポ」など、特徴を説明する名前がついています。
ゾーンの数値が高いほど、ハードで維持できる時間が短くなります。
ゾーンが切り替わると、瞬間的に持久走がテンポになるわけではありません。
ゾーンとゾーンの間は、穏やかに変化します。
エネルギー供給システムも急に切り替わる訳ではありません。
体で起きる変化は全て穏やかに起こります。
「無酸素域」だからといって、全ての動作に酸素を使わない訳ではありません。
「無酸素域」の運動の大半は、酸素を使っています。
各ゾーンの名前は、特徴を分かりやすく説明しているだけです。
スプリント能力についてはこちらの記事を参考に
ロードバイクのスプリント力に直結する「無酸素パワー」への大きな誤解
全てのパワーや心拍数は、いずれかのゾーンに含まれます。
ゾーンを理解すると、トレーニングの質が大幅に向上します。
トレーニングの目的が明確になります。
どのゾーンを改善したいのか、そのためにするべきトレーニングは何か、が考えられます。
Z2を強化するのか、Z6を強化するのかでトレーニング方法は大きく異なります。
平坦では集団についていけるのに、3分程度の上りで遅れる人は、Z5の改善が必要かも知れません。
自身のZ5を標準値と比較する必要があります。
Z5を改善するのは、VO2MAXを向上させる必要があります。
ゾーンの概念は、他のスポーツでも共通しています。
ロードバイクは、パワーメーターを使ってゾーンを数値化します。
他の種目よりも、正確かつ厳密にゾーンを知ることができます。
各ゾーンの数値を上げることが、トレーニングの目標になります。
目標とするレースの種類によっては、重要度の低いゾーンもあります。
5時間のエンデュランスレースならZ6の重要度は低くなります。
Z2やZ3が重要です。
Z2を上げるトレーニングとZ6を上げるトレーニングは、全く異なります。
ヒルクライムレースが目標の場合は、パワーの絶対値を上げるよりもパワーウェイトレシオに注力する方が効果的です。
体重が重く、筋肉が多い人ほど高いパワーが出せます。
パワーリフティングなら、体重が重いほど有利になります。
絶対的なパワーが有利になる種目の多くは、体重によって階級が定められています。
ロードレースには階級がありません。
ロードレースは自転車を前に進める競技です。
体重1kgあたりにパワーが高い人ほど有利です。
この傾向は、道路の傾斜がきつくなるほど強くなります。
自分のパワーを標準値と比較する時は、体重1kgあたりのパワーであるパワーウェイトレシオ(W/kg)を使います。
ヒルクライムについてはこちらの記事を参考に
【ロードバイク】ヒルクライムインターバル 効率アップのための5つのポイント
心拍数は、ハートレートモニターを装着して測定します。
ハートレートモニターはパワーメーターに比べて安価で、手軽に導入できます。
心拍数を用いたゾーンは、トレーニングの指標になりますが、自分の長所や短所を明確にするこはできません。
30km/hの速度を130bpmの心拍数で走れたとしても、それが優れているのか劣っているのかは分かりません。
数秒から数分の全力走では、心拍数が上がる前に限界に達します。
心拍数を使ったゾーンが有効なのは、Z1からZ5です。
Z5を超えると、心拍数は指標になりません。
心拍数を用いたトレーニングが、有効な場面もあります。
同じルートを2時間で走るトレーニングで、以前は平均心拍数が150bpmだったのに、1年後は130bpmで走れたとします。
この場合、同じ距離、速度を低いエネルギーで走れるようになったと言えます。
有酸素能力が向上している証です。
心拍数は、今日の自分の状態を数値化できます。
パワーを使ったゾーンは、調子の良い日も悪い日も同じ数値です。
心拍数は、調子の悪い日は上がりにくくなります。
心拍数を用いたゾーンは、今日の調子に合わせてトレーニングすることができます。
心拍数を用いたトレーニングが、パワーを用いたトレーニングより劣っているという訳ではありません。
それぞれ、できることが少し異なります。
心拍数によるゾーンの設定方法は数種類あります。
最高心拍数と平常時心拍数から設定する方法や、30分の全力走から設定する方法などです。
重要なのは、血中乳酸濃度が急激に上昇する「心拍数閾値」を導き出すことです。
乳酸閾値についてはこちらの記事を参考に
乳酸が溜まりにくい体になれば、ロードレースに勝てる理由と乳酸閾値上昇のためのトレーニング方法
乳酸閾値心拍数(THR)が分かれば、ゾーンが設定できます。
THRは、「乳酸製閾値(LT)」や「嫌気性代謝閾値(AT)」などと呼ばれることもあります。
正確なTHRの測定は、30分の全力走で行います。
テスト開始10分後にラップボタンを押します。
ラスト20分の平均心拍数がTHRとなります。
最高心拍数と平常時心拍数から導き出すTHRよりも、30分テストで算出する方が正確です。
%THR | 持続可能時間 | |
Z1 | ~68% | ー |
Z2 | 69%~83% | 3時間以上 |
Z3 | 84%~94% | 20分~1時間 |
Z4 | 95%~105% | 10分~30分 |
Z5 | 106%~ | 3分~8分 |
Z6 | ー | 30秒~3分 |
パワーメーターを使えば、正確に出力を測定することができます。
5秒未満の出力も、正確に測定できます。
心拍数のようなタイムラグがないため、瞬間的な努力度を数値化できます。
パワーメーターは、発売当初よりも入手しやすくなったとは言え、ハートレートモニターに比べて高価です。
導入までのハードルが高いのは事実です。
コスパ抜群のパワーメーターについてはこちらの記事を参考に
低価格と信頼性を実現した「4iiiiパワーメーター」を買って取り付けてみた
心拍数は、今日の自分を数値化します。
パワーメーターは、FTPテスト当日の自分を再現します。
調子が良い日も悪い日も、同じ目標強度です。
体調に合わせた強度設定をすることは、困難です。
パワーを用いたゾーンの決定は、解析ソフトで算出することもできます。
最も簡単なのは、各持続時間ごとのパワーを測定することです。
5秒、1分、5分、1時間の平均パワーを測定すると、各ゾーンが分かります。
FTPから推定することも可能です。
FTPは20分の全力走から推定します。
測定は、トレーニングの進捗を確かめるためにも毎回同じ環境で行います。
道路の傾斜やカーブの有無で、ゾーンの値が変化しないようにするためです。
インドアトレーニングの場合は、実走よりも値が低くなります。
室内でトレーニングする場合は、インドアトレーニングで測定したゾーンを使います。
ZWIFのFTPテストについてはこちらの記事を参考に
ZWIFT FTPテスト全4種類徹底解説 20分テスト・ランプテスト ベストなFTPテスト方法を紹介
インドアトレーニングの数値が低くなる理由についてはこちらの記事を参考に
%FTP | 持続可能時間 | |
Z1 | ~55% | ー |
Z2 | 56%~75% | 3時間以上 |
Z3 | 76%~90% | 20分~1時間 |
Z4 | 91%~105% | 10分~30分 |
Z5 | 106%~120% | 3分~8分 |
Z6 | 121%~ | 30秒~3分 |
ハートレートモニターやパワーメーターの登場により、主観的運動強度(RPE)は軽視されがちです。
しかし、RPEはトレーニング当日の体の状態を表すことができる優れた指標です。
心拍数やパワーが客観的な数値なのに対して、RPEは主観的な数値です。
重要なのは、「自分がどう感じたか」です。
パワーは、ペダルに負荷をかけて測定します。
エネルギーを外部に放出して、測定します。
RPEは体内のトレーニング負荷を測定します。
体内のトレーニング負荷と、外部に放出されるパワーは必ずしも一致しません。
十分な休息が取れた状態で出す300Wと、レース終盤で出す300Wで体にかかる負荷は全く異なります。
しかし、パワーメーターで測定するのは同じ300wです。
RPEのゾーンは違います。
ペダルを踏むのが難しい状態を数値化することができます。
競技レベルの高い人ほど、自分の状態を客観視することができます。
RPEは器具が必要ない、非常にシンプルな方法です。
正確に数値化するには、ある程度の経験が必要です。
RPEによるゾーン設定は様々な方法があります。
実用的なのは、10段階に分けたものです。
RPEレベル | ゾーン | |
1 | 1 | 非常に楽・ほとんどストレスを感じない |
2 | 1 | 非常に楽 |
3 | 1 | 楽であるが、レベル1より少しきつい |
4 | 2 | 会話が楽にできるが呼吸が少し乱れる |
5 | 3 | 呼吸数が増加する・会話ができる |
6 | 3 | 会話がやや困難 |
7 | 4 | 呼吸が荒く、30分程度で疲労する |
8 | 5 | 15分から20分しか維持できない・呼吸が非常に荒い |
9 | 6 | 脚が焼け付くような感覚がある |
10 | 6 | 最大限の努力度・数分も維持できない |
心拍数 | 68%以下 |
パワー | FTP55%以下 |
RPE | 1~3 |
リカバリーについてはこちらの記事を参考に
【ロードバイク】科学的根拠がないのにリカバリーライドをするべき理由と効果的な方法
心拍数 | 69%~83% |
パワー | FTP56%~75% |
RPE | 4 |
心拍数 | 84%~94% |
パワー | FTP76%~90% |
RPE | 5~6 |
テンポについてはこちらの記事を参考に
ロードバイクのテンポトレーニング徹底解説【効果・リスク・レベル別メニュー】
心拍数 | 95%~105% |
パワー | FTP91%~105% |
RPE | 7 |
FTPについてはこちらの記事を参考に
ZWIFTでパワー解析 最大パワー・VO2MAX・FTPを見る方法
心拍数 | 106%~ |
パワー | FTP106%~120% |
RPE | 8 |
VO2MAXについてはこちらの記事を参考に
【ロードバイクのVO2MAX判定】自分のVO2MAXは普通より高いor低い?【海外プロロードレーサーと比較】
心拍数 | ー |
パワー | FTP121%~ |
RPE | 9~10 |
心拍数は外的な要因の影響が大きいです。
睡眠時間やトレーニング以外の疲労の影響を大きく受けます。
外気温や体内水分量の影響も受けます。
パワーメーターは、出力を正確に数値化できます。
風や気温の影響も受けません。
しかし、今の自分の状態を表している訳ではありません。
RPEは今の自分の状態を表せますが、正確な数値を出すには経験が必要です。
トレーニングへのモチベーションなど、心理的な影響を大きく受けます。
どれか一つの指標に頼ると、間違った方向に向かってしまう可能性があります。
5秒以下の出力 | 1時間以上の出力 | 標準値との比較 | 今日のコンディション | 体調の変化 | |
心拍ゾーン | × | ◎ | △ | 〇 | 〇 |
パワーゾーン | ◎ | ◎ | ◎ | △ | △ |
RPEゾーン | △ | 〇 | × | ◎ | ◎ |
ゾーンの指標は、2つ以上使うと効果的です。
RPEは新しい道具が必要なく、誰でも使える指標です。
パワーに対して心拍数が低く、RPEが高い場合は体調を崩す初期症状かも知れません。
逆に、パワーに対して心拍数が低く、RPEも低い場合はコンディションが良い兆候です。
パワーか心拍数にRPEを加えることで、分かることが飛躍的に増えます。
トレーニング強度を上げるか、下げるかの判断をしやすくなります。
トレーニング経験の豊富な人は、無意識にRPEを使っている場合が多いです。