オンラインゲームのチート
オンラインゲームなどのeスポーツで、プログラムを書き換えたりする不正行為をチートと言います。
チートは「不正をする」という意味のネットスラングです。
チートはあらゆるコンピューターゲームで行われています。
コロナ禍でリアルレースが行えなかった2020年に、フォーミュラEはオンラインレースを行いました。
オンラインレースは、ユニセフの後援を受けた大規模なものでした。
このレースでドイツ人フォーミュラEドライバーであるダニエル・アプトは、替え玉に操作を依頼しました。
本人以外がゲームを操作するという、単純なチートです。
レースで3位を獲得したダニエル・アプトでしたが、後に不正が明るみに出ます。
所属のアウディは、ダニエル・アプトを直ちに解雇しました。
ダニエル・アプトは謝罪動画をYouTubeに上げるものの、2021年現在も復帰できていません。
eスポーツの価値が上がるにつれて、チートも巧妙化していくよ
ダニエル・アプトの行為は、ドライバーを交代させるというアナログな方法です。
eスポーツの規模が巨大化し動く予算が大きくなるほど、チートは巧妙になります。
ゲーム開発元も、チート行為のあったプレイヤーのアカウントを停止するなどの処置をしています。
全てのオンラインゲームにクラッキングやバグを使った裏技が存在します。
「チートツール」と呼ばれるプログラムを使えば、簡単にチートができます。
ネット上にはチートツールが有料・無料含めて多数存在します。
ある程度の知識があれば、誰でもチートができる状態です。
チートはゲーム運営会社にとって大きな問題です。
チートを放置すると、ゲームへの信頼性が低下しユーザーが離れていきます。
有料アイテムの不正取得や、チートアイテムの開発・配布は逮捕される場合もあります。
eスポーツのチートは、リアルスポーツのドーピングに似ています。
リアルスポーツのドーピングは検査技術が向上したこともあり、個人で行うには難しくなっています。
ドーピングについてはこちらの記事を参考に
【サイクルロードレースの次世代ドーピング】遺伝子ドーピングとは!?
eスポーツのドーピングであるチートは誰でも簡単に行えて、費用もあまりかかりません。
薬物を摂取するドーピングと異なり、チートは心理的ハードルが低いのが特徴です。
ZWIFTでもチートを疑いたくなる人が存在します。
フリーライドをしていると、超人的なスピードとW/kgで追い越されることがあります。
ここまで露骨なチートは、レースでは稀です。
異常なパワーを検出するとレースで失格となります。
2019年に、イギリスで6か月の出場停止と罰金を科すチートが発覚しました。
選手は、レースでチートをしたのではありませんでした。
選手のレース中のパワー値は正確でした。
レースで使用したトロンバイクの獲得方法に問題がありました。
トロンバイクはZWIFTで最速のバイクですが、獲得標高50,000mを達成しなければ入手できません。
この選手は実際に登坂せず、不正な方法で獲得標高を得てトロンバイクを入手していました。
2021年に初めてZWIFTでプロ選手が失格になったよ
2021年2月にZWIFTは、キャニオンeスポーツのプロライダーであるPhilipp Diegner選手を6ヶ月間の出場停止にしました。
ZWIFTレーシングリーグ出場の際に提出したデータを、意図的に改ざんしたためです。
Philipp Diegner選手は、2021年7月まで公認イベントへの出場ができなくなりました。
Philipp Diegner選手は、男性プロとして初めてチートにより出場停止処分を受けた選手になりました。
ZWIFTは今回を含めて過去に5回の処分を発表しています。
他の4件は全て女性選手でした。
Philipp Diegner選手の手口
Philipp Diegner選手は、ZWIFTレーシングリーグシーズン2第3戦に出場しました。
レースでPhilipp Diegner選手は、39位と最下位でした。
問題となったのは、パワーデータです。
ZWIFTは、プロ選手が出場する公認レースでスマートトレーナーのパワーデータと別に、二次的なパワーデータの提出を義務付けています。
クランク等に取り付けられたパワーメーターのデータも一緒に解析することで、スマートトレーナーのパワー値が正確だったかを推定するためです。
スマートトレーナーのパワー値とパワーメーターのパワー値は概ね一致しますが、完全に一致することはありません。
パワーが変動する時に、コンマ数秒の誤差は必ず発生します。
Philipp Diegner選手の提出したデータは「誤差なく正確に」スマートトレーナーのパワー値よりパワーメーターのパワー値が2%高いものでした。
Philipp Diegner選手はデータを改ざんしたと認定されました。
スマートトレーナーとパワーメーターの値が完全に一致することはあり得ないね
ZWIFTのチートは誰でも簡単にできます。
他のオンラインゲームに比べて、チートのハードルが低いです。
チートの加減を調整できるので、罪悪感が低いです。
体重が増えていると分かっているのに、レース前に調整しないのはよくある事です。
最も簡単で、数多くの人がしているチートが体重不正です。
ZWIFTレースで速くなるためには、体重1kg当たりのパワーを上げる必要があります。
パワーウェイトレシオを上げるには体重を落とすかパワーを上げるか、あるいは両方するかです。
パワーウェイトレシオについてはこちらの記事を参考に
ロードバイクでパワーを落とさずに体重を落とせるのか?格闘技系論文を元に検証!!
【ロードバイク】ヒルクライムインターバル 効率アップのための5つのポイント
何の努力もせずに、パワーウェイトレシオを上げる方法があります。
設定体重を落とすだけです。
体重不正を見抜くことはできません。
Zwift Powerのプロフィールを見ていると、突然体重が軽くなるライダーがいます。
レースに参加する度に体重を測る人の方が、少ないかも知れません。
体重が完全に正確なことはありませんので、公平性を保つのは困難です。
ZWIFTは設定身長が低い方が空気抵抗が少なくなるよ
身長も、スピードに影響します。
身長が低い方が、空気抵抗が減るのでスピードが上がります。
20km/hから30km/hに加速するのは、困難ではありません。
30km/hから40km/hに加速するのは、やや困難です。
速度が増すほど、空気抵抗は大きくなります。
ZWIFTが身長による空気抵抗をどの様に計算しているかは分かりません。
しかし、身長が低い方が有利なことは確かです。
体重は増減しますが、若年層以外は身長は変わりません。
身長の上下がある人は、チートを疑われます。
2022年3月に、ZWIFTは身長・体重の不正を防止するためのアップデートを行いました。
アップデート以前は、レース中にZWIFTコンパニオンアプリで身長と体重の変更が可能でした。
不正の方法は次の通りです。
この方法を使うと、レース結果には正しい身長・体重が反映されます。
レース中の身長・体重変更ができなくなったのでこのチート方法は使えなくなりました。
カテゴリーAの力があるのに、カテゴリーDに出場する人がいます。
チートではありませんが、レースの楽しさを削ぐ行為です。
自分のレベルに合ったカテゴリーでの勝利を目指してトレーニングしている人を蔑ろにする行為です。
Zwift Powerでは失格扱いになります。
失格を防ぐために、レース中は平均パワー付近でクルージングして最後のスプリントだけワットを出す人もいます。
こうすればレース全体の平均パワーはカテゴリー内に収まります。
カテゴリー詐欺について、ZWIFTは「カテゴリー強制」という対策を立てました。
過去のパワーデータに基づき、強制的にカテゴリーが決定されるようになりました。
カテゴリー詐欺についてはこちらの記事を参考に
カテゴリー詐欺撲滅!?ZWIFT新機能「カテゴリー強制」とは!?
通信不正は、機械的な不正です。
ZWIFTは、スマートトレーナーとZWIFTが情報をやり取りします。
スマートトレーナーからZWIFTに送られる情報はパワー、心拍数、ケイデンスです。
スマートトレーナーから送られてきた3種類のデータに傾斜、体重、身長、周囲のアバターとの距離を計算してスピードが決まります。
通信不正は、スマートトレーナーからZWIFTに送られるデータを改ざんします。
パワーを設定した倍率で増やすこともできます。
20%アップさせる設定なら150Wで漕いでも180W出ます。
スマートトレーナーを介さずに、コントローラーでアバターを走らせるチートもあります。
ロードバイクの不正
最も簡単にパワーを上げるには、EバイクでZWIFTすることです。
Eバイクは負荷がかかるとアシストしてくれるため、高いパワーを出すことができます。
スマートトレーナーにEバイクをセッティングするだけです。
Eバイクのパワーを増強すれば、誰でもワールドツアー選手並みのパワーが出せます。
意図的ではない不正もあります。
運動不足で体重が増えているのに、修正を忘れている人は多いです。
スマートトレーナーのメンテナンス不足もあります。
スマートトレーナーは、毎回キャブレーションすることが推奨されています。
毎回キャブレーションする人は、かなり少ないのではないでしょうか。
キャブレーションが適正に行われずに、パワーが上向きに表示されることもあります。
オンラインゲームには、必ずチートするための穴があります。
チート行為は、この穴を運営側に教えてくれます。
運営側はチートの穴を埋めることで、より良いオンラインゲームを開発できます。
ZWIFTがeスポーツとしての地位を上げるためには、チートできないようにブラッシュアップする必要があります。
ZWIFTは、高額賞金のかかるレースではリアルレースと同じ方式をとっています。
選手はレース会場に集まり、同じ機材を使います。
身長と体重はレース会場で計測されます。
この方式でチートすることは困難です。
ZWIFTは各ユーザーのパワーデータを収集し、把握しています。
普段の強さを知っているのです。
ZWIFTレースでFTP更新が検知される時があります。
1分間と5分間の最高パワーから計算していると言われています。
ZWIFTは計算方法を公表していません。
Zwift Powerに登録するのも一つの方法です。
Zwift Powerは、ZWIFTとは別の独立したサービスです。
ZWIFTコンパニオンアプリでは表示されないデータを確認することができます。
他のライダーのパワーウェイトレシオや体重なども、一目で分かります。
異常なパワー値の人や、カテゴリー不正の人をある程度外したリザルトを見ることができます。
Zwift Powerの登録はこちらから
プロ選手の不正を防止するために「ZADA」という監視団体があります。
ZADAは、Zwift Accuracy and Data Analysisの略です。
2016年に、ZWIFTの公正さを確保するためのコミュニティーとして誕生しました。
最初は小さなコミュニティーでした。
5w/kg以上のパワーを出すライダーの検証が目的の、ボランティア集団でした。
一時は活動を停止していましたが、近年になりZWIFT公認の団体となり再スタートしました。
名前も「Zwift Accuracy and Data Analysis」に変更されました。
略称はZADAのままです。
ZADAはKISS Super League eSportsシリーズで、選手が不正をしていないか監視しています。
各ラウンドの表彰者+2名がZADAの検証対象となります。
検証対象者は屋外での走行データ、正確な体重、パワープロフィール、装備データの提出が求められます。
疑わしいデータは、ZADAの検証対象になります。
KISS Super League eSportsシリーズの他にも大きなレースはZADAの検証対象となります。
全日本選手権や全米選手権はその対象です。
全米選手権では、多くのライダーがZADAの検証により失格になりました。
ZADAの検証方法は公表されていません。
検証方法を公表すると、それをかいくぐる方法を発見されてしまうためです。
リアルスポーツのドーピング検査は検査結果という数値で判断するので客観的指標です。
eスポーツのチートはデータを解析しその結果で判断するため、主観的なものになります。
ZWIFTのユーザー全員が、レースに参加している訳ではありません。
正しい値は公表されていませんが、レースに参加するのは全体の20%程度とされています。
大多数のユーザーは、フリーライドやワークアウトのためにZWIFTを利用しています。
チートをしてまでレース結果を求めるユーザーは、全体の極一部です。
チート対策のために、ユーザーが締め付けられると気軽にZWIFTを楽しめなくなる可能性があります。
世界選手権などの大規模な大会では厳格なチート対策が必要です。
運営会社は、ライトユーザーが不利益を被らないためのバランスが求められます。