ロードバイクでパワートレーニングをしていると、NPという単語が出てきます。
パワートレーニング頻出単語についてはこちらの記事を参考に
トレーニング・ストレス・スコア TSSはロードバイクトレーニングの優れた指標だが限界もある!!
CTL・ATL・TSBって何!?パワーメーターでパフォーマンス調整!
NPとはNormalized Powerの事です。
日本語では「標準化パワー」と訳されます。
NPはレースやインターバルトレーニングなど、パワー変動が激しいライドを数値化するために考え出された指標です。
NPを使えば、どの程度「きつかったか」を数値化することができます。
ロードバイクトレーニングでパワーデータは重要です。
パワーの僅かなアップダウンで、身体にかかる負荷が変ってきます。
ハードなレースや激しいインターバルトレーニングでこの傾向は更に強まります。
ハードなレースでは、意外と平均パワーが低い場合があります。
この場合、平均パワーは身体への負荷を正しく表していません。
NPは平均パワーの欠点を補うために考えられた数値です。
NPは高低差のあるコースを走った時や、レースなどで特に有効です。
NPと混同されるのが平均パワーです。
平均パワーは、パワーの上下を反映させることができません。
平均パワーは、全てのパワーに同じ重みを持たせます。
NPは、低いパワーを軽視します。
パワーは数秒単位で激しく変動します。
スマートトレーナーでは、比較的安定したパワーを出すことが出来ます。
実走では、そうはいきません。
平均パワーは、トレーニングの強度を表す指標としてふさわしくありません。
パワー変動の激しいレースや、インターバルトレーニングでペダルを漕いでいない時間も計算に入れてしまうためです。
一定で200w5分間トレーニングした場合と、100wと300wのインターバルをした場合では疲労度が全く違います。
パワーが激しく上下するトレーニングは、一定で走るより疲労度が高くなります。
下り坂やインターバルのレストなどパワーが落ちている時間を軽視し、ハードにトレーニングしている時間を重視した指標がNPです。
平均パワーは、惰性走行も含めたパワーの平均値です。
NPは2つのポイントを考慮して考えられています。
運動による体の変化には一定の時間が必要という考え方から、NPは30秒以上継続した強度を標準化しています。
6秒や10秒といったスプリントインターバルは反映されません。
トラック競技の選手はこの点に注意が必要です。
NPは「パワー・トレーニング・バイブル」の著者でもあるアンドリュー・コーガン博士によって開発されました。
NPの計算は複雑なので、解析ソフトに任せるのが現実的です。
しかし、計算方法を知っておくことは、NPを理解する上で重要です。
NPは4つのステップで計算されます。
①を見れば分かるように、30秒の平均パワーがベースとなっています。
これはNPのコンセプトである「運動による体の変化には一定の時間が必要」という考え方から来ています。
NPはIF(強度係数)やTSS(トレーニング・ストレス・スコア)にも使われます。
TSSについてはこちらの記事を参考に
【ロードバイク】TSSのトレーニングへの活用方法と4つの限界
NP単体でも使う事ができます。
NPは、20分以上のトレーニングやレースの解析に使うことが出来ます。
20分未満のトレーニングやレースでは強度を正しく反映していない可能性があります。
パワーが標準化されていない可能性があるためです。
NPを使う事が有効なのは、クリテリウムや短い登りが連続するコースなどです。
パワーの変動が激しく、平均パワーが低くなりやすい場合に有効です。
レースやトレーニングのリアルな強度を知る事が出来ます。
クリテリウムの「平均パワー」は、体感よりも低くなります。
クリテリウムは、パワー変動が激しいレースです。
短いスプリントを繰り返します。
ゼロパワーの時間も長くなります。
NPを使えば、体感と近いパワーを示します。
NPを使えば、レース中に自分のペーシングが正しかったのかが分かります。
レーススタート時にパワーを出しすぎて後半に失速するのは、よくある間違いです。
レーススタート後の20分間から30分間のNPをチェックします。
NPをチェックすることで、自分がオーバーペースだったかが分かります。
タイムトライアルやヒルクライムといった一定ペースでパワーを出す必要がある場合は、NPと平均パワーがほぼ同じになります。
平均パワーとNPに差があるほど、パワー変動が激しかったと言えます。
平均パワーとNPとの差を表したのが、変動性指標です。
変動性指標は、トレーニングピークスでVI(Variability Index)と表示されます。
NPを平均パワーで割った値が、変動性指標(VI)です。
VIが大きいほど、パワーの変動が激しかったと言えます。
イベントの種類 | 変動性指標 |
一定ペースでの走行 | 1.00~1.02 |
平坦のロードレース | 1.00~1.06 |
平地でのタイムトライアル | 1.00~1.04 |
ヒルクライム | 1.00~1.06 |
平地でのクリテリウム | 1.06~1.35 |
アップダウンのあるクリテリウム | 1.13~1.50 |
アップダウンのあるロードレース | 1.20~1.35 |
マウンテンバイク | 1.13~1.50 |
ほぼ平坦なサーキットコースでのレースのパワーデータをNPで分析してみます。
レースは80分間でした。
レースを前半・後半・最終局面に分けて分析します。
前半は逃げが決まらず、散発的にアタックがあったのでパワーは激しく上下しています。
前半のNPは、277wでした。
平均パワーは、244wでした。
変動性指標(VI)は、1.14でした。
平地でのクリテリウムの中でも激しいレースに分類されます。
NPが277Wなので、体にかかる負担は一定ペースで277W出し続けた時と同じと言えます。
選手のFTPは290wなので、決して楽ではありませんが少し余裕を持って後半に入る事ができました。
レース後半のパワーデータです。
レース後半は、勝ち逃げに乗る事が出来ました。
実力のある10名程度の集団だったので、ローテーションもきれいに回りました。
前半に比べてパワーが安定しているのが、パワーグラフからも読み取れます。
レース後半のNPは、258Wでした。
平均パワーは、238Wでした。
変動性指標(VI)は1.08でした。
平坦でのタイムトライアルに近い数値です。
集団でのローテーションがきれいに回ったので、パワーロスが少ない逃げになりました。
実力のある逃げ集団に乗れた事で、パワーをセーブできたことが分かります。
選手のFTPは290Wなので、NP258Wは少し余裕があります。
前半の疲れが蓄積しているものの、集団から脱落することなく逃げる事ができました。
逃げ集団は、後続と大きな差をつけてレースは最終局面を迎えました。
逃げ集団内から、更に逃げる動きが出てきます。
選手自身も逃げ切りを図るために、アタックを試みます。
パワー変動が激しくなったのが、パワーグラフからも読み取る事が出来ます。
この区間のNPは、308Wでした。
平均パワーは、254Wでした。
変動性指標は1.21です。
マウンテンバイクレースに相当する、激しいパワー変動です。
選手のFTPは290WなのでNP308Wは限界値です。
レース後半で激しく消耗していれば、最終局面の展開についていくことが出来なかったと推定されます。
逃げ集団の中でも、最後の10分間で脱落者が出ました。
この選手は、レース後半にパワーをセーブできたので最終スプリントまで残ることができました。
しかし、単独で逃げ切ることはできませんでした。
ヒルクライムは、一定ペースで登ります。
パワー変動が少ないので、NPと平均パワーの差は縮まります。
35分間のヒルクライムのパワーデータです。
ほぼ一定ペースで登っているのが分かります。
NPは316Wで、平均パワーも316Wでした。
変動性指標は1.00です。
「一定ペースで登る」という目標を達成していることが分かります。
パワー変動が少ない場合は、NPと平均パワーが限りなく近くなります。
VIは1.0に近くなります。
タイムトライアルやヒルクライムでは、NPは重要ではありません。
ヒルクライムレースでは、パワーが上下する場合があります。
この場合は、NPと平均パワーを比較することでレースの激しさを表すことができます。