ロードバイクのレースやトレーニングで、脚がつる事があります。
ロードレースだけではなく、サッカーやマラソンのトッププロでも脚がつることがあります。
2007年世界陸上大阪大会で、日本人選手の多くが脚がつりました。
日本選手団の成績が振るわなかったことで、大きな話題になりました。
2023年の世界陸上ブダペスト大会でも、日本歴代3位のタイムを持つ山下一貴選手が脚のつりで失速しました。
山下選手は、40キロ過ぎまで5番手の快走でした。
最終終盤に両脚がつり、12位でフィニッシュしました。
トップアスリートと最高のコーチ陣が万全の体勢で挑んでも、脚のつりは予防できなかったことになります。
「攣り」は筋肉の痙攣によって起こります。
特に、二つの関節をまたぐ筋肉はつりやすくなります。
ロードバイクの場合は、太ももとふくろはぎの筋肉がつりやすいです。
つりは数秒から数分続くときがあります。
一度つると、再びつりやすくなります。
つりやすい人は、遺伝的要素があると言われています。
特に父方の特徴を受け継ぐと言われています。
長時間のレーニングやレースで、脚をつったことのある人は多いのではないでしょうか。
トレーニング中だけでなく、睡眠中もつることがあります。
なぜつるのでしょうか。
どうすれば予防できるのでしょうか。
トップアスリートでも、脚がつることを防ぐのは難しいです。
トップアスリートの「脚のつり」が大きく注目されたのが、2007年夏に大阪で開催された世界陸上でした。
2007年世界陸上は、16年ぶりに日本で開催されることで大きく世間の注目を集めました。
男子選手45名、女子選手36名がエントリーしました。
メダル5個獲得を目標に日本のトップアスリートやコーチ陣が一丸となって挑んだ大会の結果は、惨憺たるものでした。
メダルは、女子マラソンの1個のみ。
多くの選手が脚の攣りにより、予選敗退しました。
あの室伏がまさかの6位、末續、醍醐、そして、沢野が次々にけいれんを起こして…。TBSが運営する世界陸上大阪大会で、日本選手の苦戦が続いている。そんな事態に、08年に北京五輪を控えた陸上関係者から、「選手はあまりスター意識に走らないで」と苦言が出た。選手らは、スターの仕事の方が忙しかったのだろうか。
J-CASTニュース
批判的なメディアが多かったんだね
日本選手団は、万全の対策で大会に挑みました。
大阪は、日本で最も暑さの厳しい土地です。
そのため、暑熱馴化のトレーニングを実施しました。
暑熱順化についてはこちらの記事を参考に
真夏のロードレースで勝つために 熱中症のリスクと暑熱順化を徹底解説
トレーニング時の水分、電解質の摂取を徹底しました。
大会前は清涼な北海道で合宿を行いました。
しかし、200mの末續慎吾選手などメダルを期待された選手が続々と脚の痙攣により予選敗退します。
対策をしていたにも関わらず、脚のつりを防止できませんでした。
チームの雰囲気は暗くなり、スタッフに動揺が広がりました。
予選敗退の連鎖を食い止めるために、対策がなされました。
選手の血液性情を調査し、症状を聞き取りました。
水分と電解質の摂取を徹底しました。
トレーラーステーションを冷房の効いた室内から屋外へ移動しました。
最も大きな要因は精神的重圧でした。
16年ぶりの日本開催なので、TBSは大々的に大会を宣伝しました。
選手は通常のビジネスホテルに宿泊していました。
一歩でも外に出ると、サインや写真撮影に応じる必要がありました。
追っかけも多かったので、部屋に閉じこもりがちになりました。
気分転換のための散歩も、難しい状況でした。
水分や電解質の摂取を徹底し、万全のコンディションで挑んでも「脚のつり」は防げませんでした。
「脚のつり」である筋痙攣は、運動中や睡眠中に発生します。
筋痙攣は、突発的・不随意的な有痛性の筋収縮です。
大学生547名を対象に調査したところ、92%が「つり」を経験していました。
一度もつった事のない学生も5%から8%いました。
つった部位は次の通りでした。
下腿後面:62% |
足の裏:42% |
足の指:31% |
つる場所はハムストリングスが多かったです。
スポーツ選手を対象にした調査では、マラソン選手の33%、トライアスロン選手の62%がレース中につった経験がありました。
下腿三頭筋:80% |
大腿四頭筋:48% |
下腿三頭筋はふくろはぎ、大腿四頭筋は太ももの前側です。
筋痙攣は筋疲労、脱水、血中の電解質、タウリン、クレアチン、ビタミンの減少、環境温を要因とする説があります。
つりの原因は色々な説があるよ
速筋タイプは筋痙攣の発生する割合が高いと言われています。
速筋タイプは代謝産物の産出量が多く、筋が緊張しやすいためではないかと言われています。
速筋タイプはつりやすい傾向があるんだね
速筋、遅筋についてはこちらの記事を参考に
筋疲労によって筋痙攣が発生することを、実験的に検証した研究はありません。
筋疲労を生じさせても、痙攣は発生しませんでした。
筋疲労が筋痙攣の主原因であるとは言えません。
マラソンやウルトラマラソン、トライアスロンで筋痙攣が発生した選手としなかった選手の体重減少率や血漿量を調査しました。
血漿量などに、違いはありませんでした。
脱水は、筋痙攣の要因ではありませんでした。
痙攣が発生しやすいテニス選手に、日常から水分とナトリウムを多く摂取するようにしました。
すると筋痙攣は発生しなくなりました。
痙攣しやすい選手に水分とナトリウムを日常的に摂らせると、効果がありました。
高温環境で電解質を含む水分を摂取させると、筋痙攣の発生が遅くなりました。
発汗に伴う脱水が、筋痙攣の要因である可能性があります。
発汗による脱水のメカニズムは次の通りです。
汗が出ると運動神経が興奮しやすくなって痙攣しやすくなるよ
血中の電解質、タウリン、クレアチン、ビタミンの低下が筋痙攣に関係している可能性は高いです。
血中電解質濃度と痙攣の発生は関係が深いと言われています。
マグネシウムの摂取で、夜間の筋痙攣を予防することは出来ませんでした。
フットボールの試合中に、筋痙攣が発生した選手を調査しました。
筋痙攣は、発生した選手は発汗によるナトリウム損失量が多いことが分かりました。
汗でナトリウムが失われた選手は痙攣しやすかったです。
ナトリウムを含む飲料で、筋痙攣の発生を遅延または予防できました。
ナトリウムを含む飲料を飲むことでつりを予防できた実験もあるよ
長距離レースの選手を調査すると、筋痙攣の発生した選手と発生しなかった選手でナトリウム濃度に違いはありませんでした。
高温、低温が筋痙攣に影響するかを検証した実験は、ありません。
マラソンレースで筋痙攣が発生した選手と発生しなかった選手で、直腸温に違いはありませんでした。
痙攣と体温にも、関係はありませんでした。
常温でも、筋痙攣は発生します。
環境温が筋痙攣の直接的な要因とは、考えにくいです。
気温が痙攣の直接の原因とは言えなかったよ
運動前のストレッチングが筋痙攣の予防になると言われることが多いです。
しかし、これは筋痙攣が発生した時の対処法が拡大解釈されている可能性が高いです。
トレーニングやレース前の静的ストレッチングは、デメリットがあります。
トレーニング前のストレッチングについてはこちらの記事を参考に
筋痙攣は、長時間の運動で発生することが多いです。
棒高跳びや走り高跳び、200m走など短時間の運動でも発生します。
筋疲労や電解質異常だけでなく、精神的ストレスも大きな要因です。
2007年世界陸上で日本選手団は、威信をかけて大会に臨みました。
暑い大阪で、脚のつりへの対策も万全でした。
選手は、水分と電解質を十分に摂取しました。
しかし、つりを避けることはできませんでした。
メディアが大々的に大会を盛り上げたことによる精神なプレッシャーは「つり」に大きく関係しそうです。
つりが起こる原因は様々であり、一つに特定されるものではありません。
環境、精神状態、栄養状態、コンディションなど複合的な要因でつりは起こります。
特定の原因は解明されておらず、完全な予防法はありません。
つりは、肉体的・精神的に自分の限界を超えた時に起こります。
楽なペースで自由にサイクリングする時につることはありません。
重要なレースで、自分を限界まで追い込むときに脚をつるようになります。
完全な予防法はありませんが、レースと同じ位の強度と時間で複数回トレーニングするとつる可能性を減らすことができます。
つりは精神的な影響も大きく受けます。
レース前はリラックスして、十分な睡眠をとることが重要です。
レース中は、十分な電解質を摂ることでつりを予防できます。